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名将気取り

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2005年 05月 04日

盛衰の交差点

 終盤も差し迫ったリーガ第34節、トップで2強の鍔迫り合いが続く中、より熾烈を極めているのはむしろ3位以下の欧州杯出場圏内を賭けての争いだろう。ホームでライン相手に惨敗を喫したデポルティボ・ラコルーニャと、3位という高位置につけるアンダルシアの雄セビーリャとの対戦。
 4位以上のチャンピオンズ・リーグ出場権および6位以上のUEFA杯出場権の獲得は、すなわち来シーズンの懐具合を決める予算争奪戦でもある。今季は優勝を争う2強を除いて稀に見る混戦で、この期でも3位のセビーリャ(勝ち点55)から10位のデポルティボ(勝ち点46)あたりまでは充分にUEFA杯まで手が届きそうな位置取りだ。

 現時点で3位のセビーリャは、ホアキン・カパロス監督のもと手堅くも小気味の良いフットボールを展開して考えうる最高位につけている。一方のデポルティボは低迷から脱却したかに見えた一時の復調ぶりも今や見られず、依然中位にうずくまっている形。勢いでもセビーリャに軍配が上がるという試合前の予想を、そのまま絵にしたような試合だった。参考のため、この試合前のイルレタの言葉を引用しよう(参照)。


「まだ5試合、勝ち点で計算すれば15ポイント残っている。我々が目標を達成したかどうかの総括は最後にして欲しい。悲観的になっても何もいいことはないんだ。2連敗している監督が何を言っているんだと思われるかもしれないが、私は現実を言っているまでだ。例えば残り5連勝することだってありうる。まず今週末のセビーリャ戦に勝って、次のホームの試合に弾みをつけたい」

 ディエゴ・トリスタンの離脱によりルケがセンターへ入ることで、イルレタがチョイスする選択肢はふたつ。いつもの変則4-4-2をそのまま採用するか、もしくは純粋な4-2-3-1で手堅く構えるか。スタメンから見る結果は後者、左SBのカプデビラを左ハーフに置き、ムニティスを右に配した4-2-3-1。ビクトル&ムニティスの両サイドという予想を後ろ向きな意味で裏切った形である。
 対するセビーリャは、こちらも主力の離脱で前線はダリオ・シルバが久方ぶりのスタメンでセンター。使われてもサイドハーフに配置されることの多かった彼にしてみれば、監督を見返す良い機会でもあったが、それはルケにしても同様である。本来センターFWとしての自覚のある彼にすれば、左サイドで変則的な2トップの片棒を担がされるよりは真ん中でのプレーにより魅力を感じているはずだ。

 だが結果的に、この二人の明暗はチームのそれをも分けた。デポルティボはとにかくラインが間延びして仕方がなかった。確かにセビーリャの左右両サイド(ヘスス・ナバス&アドリアノ)は広く狭くサイドを蹂躙してはいた。しかし縦に伸びきったラインを押し戻せなかった点は、最前線のルケに拠るところは大きい。マイボールになった時点で、DF陣としては押し上げのための時間的余裕が欲しいところであるが、ルケは再三その時間的余裕を僅かなチャンスと引き換えにして無にした。無論のこと、良いボールが回ってこない焦燥もあったろうが、1トップが中盤の深い位置まで下がってきては前線に落ち着きどころの生まれるはずがない。最前列にバレロンひとりが佇む姿は悲壮感さえ漂った。

 前半、マウロ・シルバの負傷時に奪われた先制点は、中盤の底に空いたそのスペースをバプティスタに巧く使われた結果だが、しかしその決定機以外でもこのセビーリャの10番には再三振り回されていた。彼が中央で存在感を放つことで、より両翼が活きたことは見逃せない。これと同じことはこの日のデポルティボ側には見られなかった。
 ルケの冒した間違いを、一方のダリオ・シルバは逆転の発想で打破した。ボールが良い形で足元に入らないのならばと、自慢のスピードを活かして左右のスペースへの走り込みを繰り返す。これにより、デポルティボのDF陣はラインを下げざるをえなくなった。彼の空けたスペースには、バプティスタやヘスス・ナバスが勢い良く走り込んでくる。2点目のヘスス・ナバスのシュートは秀逸だったが、その前に彼が中へ絞って開くだけのスペースがそこにあったことを思うと、ダリオ・シルバの献身的な動き出しは実行力を伴ったフリーランニングと映るのである。

 マウロ・シルバの交替以後、いよいよデポルティボのラインは開いた。ビクトルを投入してムニティスを左に配し、遅ればせながら変則4-4-2に戻すも時すでに遅し。3列目のセルヒオらが必死に攻撃に絡もうとしたが、そのため中盤底の、すなわちバプティスタのスペースがガラ空きになった。左右両サイドは無人の如くで、後半は追加点を入れなかったことの方が不思議でさえある。

 サンチェス・ピスファンは数々の奇蹟を起こしてきた由緒ある舞台だが、この日の勝利は至極当然の結果のようでドラマ性は少なかった。セビーリャの俊敏な戦いぶりに比べれば、デポルティボのそれは酷く鈍重だったと言える。ルケが健在だし、ビクトルやムニティス、セルヒオも好選手である。名前から見れば、むしろセビーリャの方が数段見劣りする。少なくない数の離脱者を抱えるとはいえ、デポルティボの戦力値は決して低いものではない。ではその病巣は何かと問われれば、やはり精神的な団結力の有無になるだろう。

 チームとしての共通意識は、勝ちさえすれば得られるものではなく、また負けたからといって失われるものでもない。それらを維持することは至難の業だが、名将とはそれをコントロールできるものを言う。イルレタがリアソールに降り立ってから長い年月が経ち過ぎたのだろうか。否、個人の能力で対応できる限界点をすでに状況は越えてしまっいるのである。彼の育て上げたチームという乗り物は、機関部が故障することなく各部が劣化し消耗した。メンテナンスが追いつかず、ついにドライバーの意識が低下した。部品の各部が思い思いの軌道を描き、今や走っているのがやっという状態である。それを固体として何とか維持しているのが現在のイルレタの姿である。これ以上を彼に臨むのは酷と言うべきだろう。

 デポルティボは明らかに再編の時期に来ている。ポスト・イルレタの最有力候補と言われるセビーリャの将帥ホアキン・カパロスが作り上げたチームは、全体の守備意識が攻撃にも好影響を及ぼす健康的なスタイルである。イルレタからすれば、敵チームのその躍動は何年か前のデポルティボを見るような思いだったに違いない。上り調子の若いチームと下り坂の老いたチームが交差したこの日の対戦は、見事にその対比をスコアに比例させた。クラブの盛衰はフットボールの常でもあるが、これほど如実に立ち現れる例も珍しいだろう。


「もし臆病者の監督だったら2年連続でピチチ(得点王)を生み出すチームは作れない。しかもこのように小さなクラブでね。 違うかい? マカーイとディエゴ・トリスタンはデポルでピチチを獲得した。だからそれは真実ではない」

 イルレタのこの言葉(参照)は、残念ながらこの日の彼には当てはまらなかったと言えるだろう。左サイドにカプデビラを置いた4-2ー3-1に勇気ある指揮官の横顔は窺えない。リアノールの敗戦は確かに痛手だったが、サンチェス・ピスファンでのセビーリャ戦に恐れをなしたとしか見られない戦いぶりだった。カプデビラの左ハーフ配置は、すなわちルケ+ムニティス頼みのカウンター戦略。それがためのバレロンの中途半端な位置取り、それがためのラインの間延び。チームの意識がこの試合の勝利にあったのかどうかすら疑わしい。まさにチーム劣化の末期的な症状だった。

 CL出場権を狙う上でこの試合に賭けるセビーリャの目は吉と出た。直前合宿を張ってまで臨んだデポルティボ戦は「2-0」で快勝した。若いチームは乗せると怖い。次節に控えるベティスとのアンダルシア対決でも好勝負は必至である。残り4試合の現時点でデポルティボは勝ち点46で11位に後退。セビーリャは勝ち点58で3位をキープした。


1 バルセロナ 78
2 R・マドリッド 72
3 セビーリャ 58
4 ビリャレアル 55
5 バレンシア 53
6 エスパニョール 53
7 ベティス 52
8 サラゴサ 49
9 A・マドリッド 48
10 A・ビルバオ 48

 セビーリャの考えうる最高位はこのままの維持の3位。CL出場枠の4位、UEFA杯出場枠の6位までの争いは最終節までもつれることになりそうだ。1試合落とせばそれだけで戦線脱落というデッドヒートだが、すでにデポルティボのシーズンは終わったに等しい。仮にUEFA杯に手が届くようなことになれば、それこそ驚きだが、以降は勝ち点を争う同胞と直接対戦の目白押しであるため、可能性もないとは言えない。
 今節アルバセーテに快勝したバルセロナは依然首位のまま、同じく勝ち点3を収めたレアル・マドリッドとの勝ち点差も変わらず。レアル・マドリッドがこのあと4戦全勝しても、バルサは2戦2敗できる計算が立つ。次節バルサが勝ってレアル・マドリッドが敗れれば、そこでバルセロナのリーガ優勝が決まる。

 今季、素晴らしい躍進を見せたセビーリャだがこのまま行けばCL出場は堅い。むしろ杞憂は来シーズンの陣容になる。主力の離脱を留めることも至難だが、何よりホアキン・カパロス監督の去就がより重要だ。上り調子にあった若いチームの勢いを、レジェス放出後も維持してさらに進化させた手腕はまさに一流と言える。来シーズン、彼の定位置がリアソールにあるのかは定かならないが、どちらにしろセビーリャが見せた小気味の良いパフォーマンスは今シーズンのリーガを魅惑的に彩ったことだけは確かである。

# by meishow | 2005-05-04 14:48 | フットボール
2005年 04月 24日

薫風の誉れ

 無勝の最下位。開幕以来いまだ勝利のない清水は6戦して0勝2敗4分で、目下最下位。6試合6失点という失点数は秀逸だが、4得点という攻撃数値は寂しい限りである。リーグ最年少の長谷川監督のもと、例年に比べて注目度の高かった開幕前の清水だが、蓋を開けてみれば苦戦が続いた。

 川崎・大宮といったJ2からの昇格組が気を吐く中で清水の低迷が色褪せて映るのは確かだが、今ひとつ不思議なのは最下位とはいえ手の施しようがないという落第点も見られないところだ。長谷川監督の就任で大きく変わった点といえば、やはり4バックの完全導入だろう。相手がどう出てこようと4バックを貫く監督というのはフットボール先進国では珍しくもないが、ここJリーグの中では少数派に属する。トップリーグの監督として初のシーズンを、4バックで貫徹させるには尋常の腹の括り方では難しいだろう。若手監督の情熱が確固たる矜持になりうるのかどうかは、シーズンを終わってみなければわからないが、今のところ長谷川監督の中に妥協を許すスペースは見当たらないようだ。

 ウイングバックとしてプレーすることの多かった市川が、今季は開幕から4バックの右サイドバックに入っている。森岡・斎藤のコンビはリーグでも指折りの安定度を誇り計算が立つ。左サイドバックとして磐田から山西を獲得したのは、もしかすると4バック貫徹の最重要ピースかも知れない。攻撃力にはさほど期待はできないものの、守備面での安定度を考えると4バックが不慣れなチームには彼ほど結果として貢献できる左サイドバックもいないのではないかと思われる。左が落ち着くことで、右の市川をより攻撃的に使うことが可能となったことを踏まえれば、支離滅裂でない補強が功を奏したこれは良い例だろう。

 しかしこれまでの清水は4バックの布陣を敷きながら、縦へ急ぎすぎる一辺倒さが目立った。この面での問題点はやはりボールの落ち着きどころが中盤の良い位置に存在していなかったこところにある。これまでのそうした流れを断ち切る意味でカンフル剤となったのが、この日の両サイドに配置された2人だった。左の沢登と右の山本。沢登はこれまで出場機会に恵まれず、山本に至っては17歳の清水ユース所属選手である。

 布陣は4-2-3-1。チョ・ジェジンをトップに据え、2列目に左から沢登・久保山・山本が入る形。杉山不在の3列目は伊東と本来はCBの高木和道で組んだ。実質上、久保山はトップ配置でチョ・ジェジンと縦の関係性の2トップに近い役回り。自然、沢登にかかる負担は小さいものではなかったと言える。立ち上がりから攻勢に出た清水は高いライン設定を保ちつつ、速いパス回しからサイドへ展開する意図が明確だった。右サイドの山本が見せる思い切りの良さも、チームの勢いを増させるには功があった。

 しかしながら、この日の勝因を探るなら沢登の動きに注目せざるを得ないだろう。左サイドに張るかと思えば、試合途中から多くの時間を中央の位置で過ごした。これは監督の指示によるものか本人の意思かは定かではない(おそらくは後者であると思われる)が、2トップ下に持ち場を移した沢登の振るうタクトによって、確実に清水の攻撃姿勢は決定付けられたことだけは確かだ。その意味では、清水の攻撃時の基本形は4-4-2に近い形であったとも言える。

 この第7節までの時点で、最多得点の千葉と最小失点の清水との対戦。矛が勝つか盾が凌ぐか興味深いところではあったが、結果的には攻撃的な守備で清水が競り勝った。DFラインは90分を通して高き位置取りを保とうという意思は感じられたし、全体として守備意識の高さが統一されて、それがこの日は攻撃面でも好影響を与えていた。

 千葉は悪くはない出来だったとは言えない。いつもながらの走力フットボールを滞りなく披露できる水準に、オシム長期政権となった今の千葉は達していたはずだった。しかし中盤の要・羽生の欠場に加えて、試合開始早々にCBの斎藤を負傷で失ってから、阿部が最終ラインへ退かざるを得なかったことがあまりに痛く響いた。中盤での展開が単純な構図を取り、マリオ・ハースのポストプレー以外に効果的な起点を作れなかった。攻守の切り替えと、その後の動き出しの早さはいつもの千葉だったが、攻撃に今ひとつの迫力を欠いたのは中盤から縦に急ぎすぎためであると言えなくもない。

 清水が高ラインを敷いたことにも影響しているが、マリオ・ハースはたびたび前線を離れて中盤の位置まで下がってきた。後半終了間際にFW林が投入される前後はほとんどトップ下としてプレーしていたが、彼の適性は本来トップ下にあるのではないかと思わせるスムーズさが見られた。だが清水のセンターを切り崩すのに、FW巻が1枚の攻撃ではさすがに苦しい。斎藤の退場という不運も重なったとはいえ、後手に回った観は否めない。


「選手のほとんどが実力を発揮しなかった。うちはレギュラー1人が代わっただけで問題が起こる」(オシム・試合後談)

 千葉の将帥はこう語った(参照)が、守備陣の不在ばかりを嘆いてばかりもいられない。1失点目はオウンゴールによるものだが、それに泣いたという出来でもなかった。現時点で最多得点を誇るチームにしては物足りない攻撃だったことは確かだ。阿部はこのチームにあっては、やはり中盤に置きたいところだ。その地域で展開に変化をつけられていれば、マリオ・ハースがあれほど下がってくる必要性も生まれなかっただろう。

 対する清水は後半に高木純平・平松と攻撃的カードを順次投入して、その勢いを止めようとしなかった。小兵の久保山がDF2人を押しのけるヘッドで突き刺した決勝点も、右サイドを驀進した市川のセンタリングで勝負ありだった。徹底してサイド攻撃にこだわった心意気は、今季リーグ初勝利という果実として実った。この後、長谷川監督率いる清水が自身の戦い方を貫けるかどうか今のところ心配はなさそうだ。
 勝利から遠ざかっていた開幕からの短くない期間は、むしろチームの団結力を増さしめた。2敗4分という数字は、可能性を否定しきれる絶望感までは伴わなかったようである。最下位からの脱出はわずかひとつの勝利で叶った。今後の先行きは意外に暗くはないと思われる戦いぶりを、この日の清水は見せたと言える。

 弱小を返上し今や堂々たる中堅クラブとなった千葉の昨今の躍進に、新生清水は続くことができるだろうか。フロントの監督に対する信頼は厚い。就任1年目の今季、可能性を感じさせるフットボールを見せ続けることで、未来に対する希望のタネを増やして欲しいという願いは清水ファンでなくとも抱きえる。


「勝ってないのはうちだけで、選手は一生懸命やっているのに申し訳なかった。まだまだ情けない監督で選手に助けられて得た勝利だと思っている。リーグ戦で勝つことがそんな簡単なものではないと先輩方(他の監督達)が教えてくれた。プレッシャーの中でどうやって勝つか。勝つことの難しさをあらためて思い知らされた」

 長谷川監督のこの言葉(参照)は一勝に苦しみ続けた若手監督の苦渋の顕れとも取れるが、逆に言えばこれだけの劣悪な状況だったにもかかわらず彼は4バックの姿勢を崩そうとはしなかったのである。初のトップチーム監督就任で、それをやり抜こうとする新人監督はそうそういるものではない。
 監督の資質として臨機応変の能も確かに必要ではあるが、信念を貫こうとする意志の強さはそれ以上に必須だ。ともすれば『策士、策に溺れる』ことになりかねない魑魅魍魎の監督業で、その点は意外に重要な項目である。まさにそのことを、この日の長谷川監督は身を以って示したと言えるのではなかろうか。成績はどうあれ、そういった貫徹性のある戦いぶりは見苦しさを伴わない、颯爽となびく薫風と感じられるのである。

# by meishow | 2005-04-24 16:33 | フットボール
2005年 04月 20日

将帥に差異あり

 同じ轍は踏まない。最終的な勝者となる条件のひとつにその項目があるとすれば、今のバルセロナは充分それを持ちえていると言えるだろう。2位レアル・マドリッドと激突したクラシコの敗戦によって、今後のリズムが崩れるのではという懸念もないではなかった。勝ち点差も6に縮まり安穏とはしていられない状況になったことは確かだったからだ。チャンピオンズリーグ敗退後の一戦でもそうだったように、今季のバルサに敗戦を引きずる風は見られない。これは大きなアドバンテージである。
 この先は2位との星勘定ではなく、ただ目前の戦いだけに集中するのみである。勝ち続けていれば優勝が見えてくるというごく単純な構図だ。残る対戦相手は、都合の良いことにレアル・マドリッドが残す相手より組し易いものである。優勝へのカウントダウンはすでに始まったと言って良い。

 この日迎えた第32節。前節で負傷退場したエトーの姿はスタンドにあった。スタメンのトップはマキシミリアーノ・ロペス。これまでリーガで得点のない彼だが、コンビネーションの部分でも不備が見えるほどの新顔ではもはやなくなっている。その点での心配はなかったが、チームに対する影響力は、たとえばエトーのそれとは隔絶していた。

 自然、得点への期待は最前列以降へと移ることになった。ロナウジーニョはたびたび中央へ進出し、マキシ・ロペスやジウリを操った。この点では2トップ後方のトップ下のようなポジションだったとも言えるのだが、右に出ても左に張っても決定的な影響力を保持し続けることが可能なのは、ロナウジーニョの真骨頂だろう。結果、彼のFKから先取点を得たが、その他にも得点の匂いはそこら中に満ちていた。前半が1点で終わったのは、バルサの不備よりもむしろヘタフェの好プレーを称えるべきだ。

 ヘタフェは毎度のことながら、この試合でも小気味の良い戦いぶりを見せた。中位から下位を行き来しているとは思えない好チームぶりである。キケ・サンチェス・フローレス監督の手腕は認めざるを得ない。レアル・マドリッドの下部組織の監督も務めたこともある彼だが、むしろ彼のような人材こそサンチャゴ・ベルナベウの一軍を任せたい。経済至上主義を標榜するクラブの経営路線を打破する指導者として歓迎したい趣もある。ルシェンブルゴの後任には、実より名が先行した人材が挙げられるのが目に見えているだけにそれも空論に過ぎないが、仮にそんなことが実現化しうるのならば、あの白い軍団にもまだ見込みがあるというものだ。

 プジョルを出場停止で欠いた上に、アルベルティーニ、エトー、そしてシウビーニョまでもを怪我で欠いたバルサの台所事情は相変わらずに苦しい。メッシらカンテラ出身の若手に才能がないという意味ではないが、ロナウジーニョら主力級の中心選手が離脱せずにいるために何とか食い繋いでいるというのが実情である。レアル・マドリッドのようにオーウェンやソラーリ級の選手がベンチに控えているようなこともない。よく持ち堪えているという面での評価をもう少し得ても良いように思う。

 マルケスは大方の予想通りに最終ラインへ配置された。中盤の底はシャビの1枚。とはいえ、この日はイニエスタとデコも中盤の深い位置まで下がり、よく彼をフォローした。マルケスは通常このピボーテの位置に入って実質的にはフォア・リベロと称されるべき仕事を担うが、この日も彼の仕事の内実に違いはなかった。最終ラインに位置取っているものの、ヘディングの競り合いなどの肉弾戦は専らマルケスの役目。シャビが後ろに引いてマルケスが前に出る対処法は、普段の役割とさほどの違いがない。むしろDFを1枚切って、中盤にイニエスタが加わったことで総合的な攻撃性は増したと言える。

 後半はヘタフェのスタミナ消費による失速も手伝って、よりスペース的な余裕が生まれた。ロナウジーニョの奮迅はいつものことだが、その裏に絶妙な駆け引きで相手を混乱に陥れるデコの存在があったことを忘れてはならない。デコはこの日も黒子に徹した。惜しまぬフリーランニング、機転の利いたスルー、ワンタッチで弾くパス交換と、随所にいぶし銀の活躍を見せた。彼の貢献があったればこそ、ロナウジーニョはどこにでも顔を出せたし、そのポジショニング効果が増加したと言えるのである。

 ロナウジーニョが時折り中央へ絞ることによって、ジウリと縦の関係性になった。3トップが実質『2+1』の位置取りになったことでサイドはむしろ活性化したと言える。バルサの両サイドバックはサイドハーフのようなポジションを維持して攻撃に絡むこととができた。DFの意識が左右のサイドに振られることによって、中央のロナウジーニョは時間的な余裕を得た。2点目に至るまでに、それと同じような決定機は何度となく訪れている。

 結果として無得点に終わったマキシ・ロペスは、無論FWとしては悔しかっただろうが、それほど嘆息することもなかったのではないか。動き自体は悪くなかったし、何より連携の面で滞りなかった。ジウリが自由になれたのも、前線で身体を張るマキシ・ロペスのポストプレーがあってこそのものだった。まだ新顔の彼だが、その若者らしからぬ落ち着いたプレーぶりには好感が持てる。

 終わってみればヘタフェを「2-0」で下して首位を堅持。2位のレアル・マドリッドもレバンテに同じく「2-0」で勝ったので勝ち点差は変わらずのままだが、しかし二度のクラシコの直接対決で得失点+1をバルサがリードしており、そのアドバンテージにより数字上では勝ち点差6ながら、実際上はの差が存在している計算になる。つまりレアル・マドリッドはバルサと勝ち点で並んでも優勝はできないということだ

 下位のレバンテ相手に、またしても守備的なカウンターフットボールで勝利を得たレアル・マドリッド。王者を目指すこのチームが下位チーム相手にカウンター戦術で立ち会う姿は、もはや醜悪ですらある。仮に彼らが優勝すれば、間違いなくチーム内のMVPはカシーリャスとなるだろう。スーパープレーを披露し続けるGKと快速FWの活躍は、転じて守備的な非魅力的プレーに徹されたことの証左である。イタリアでは許されるその卑屈さを、スペインの地でブラジル人監督が志向しているという皮肉が何とも悲哀を誘う。
 
 これほどまでに対照的な首位争いの構図もない。メッシとフィーゴ、両陣営のベンチに控える控えの層を見ても、この時点でレアル・マドリッドが2位であること自体がある意味では茶番である。まさしく、フットボールは札束では買えないということの証明でもある。名だけは豪華な手駒を持つ一方の将は目にも無惨なカウンターフットボールに徹し、主力の怪我に泣かされる一方の将はシーズン通して攻撃志向を崩さずにいる。その両者の指向の差異は、驚くほどに大きい。王者の称号に相応しい将帥がいずれであるかは、もはや言うまでもないだろう。


「素晴らしいフットボールを展開しているヘタフェのようなチームに勝てたということが大切だ。チームは頑張っているし、良い方向に向かっている。それが一番大切なことだ。このまま続けていかなければならないし、他のチームと比べたりはしない。実現するまではタイトルの話はするつもりはない」

 こうライカールトは語っている(参照)が、今のところチームに軌道修正の必要は見られない。シーズン通して高品質のフットボールを維持することは至難の業だが、クラブレベルの指導者としての経験が豊富とは言えない彼のこれまでの仕事ぶりは充分賞賛に値する。チームの状態が良い時も悪い時も、信念を曲げようとしなかったその性根には敬意を払いたい。選手時代に監督クライフともぶつかった彼のことである。ドリームチームと幾ら比較されようと、ライカールトの目はそこには留まってなどいないだろう。監督としての彼の矜持は、すでに世間に蔓延する『ライカールトはクライフの弟子』といった画一的なものの見方を軽く凌駕してしまっていることだけは確かだ。

 ただしかし、彼は監督としてまだ何も手にしてはいない。そのひとつ目の栄光がバルセロナのリーガ制覇という冠なのであれば、若手監督として果たしてこれ以上のものが他にあるだろうかと思われる。シーズン序盤、ラーションとジウリが離脱した時点でバルサの優勝に黄信号が灯って以後も、彼はその短くない期間を凌ぎきった。今の「バルサ優勝間違いなし」という風聞も、彼にすれば軽薄な評価だ。

 足元を見据えた上で、プレッシャーに気圧されず夢のあるフットボールを展開する若手監督は、思うより世界には少ない。人材薄のそのポジションにまず名乗りを上げたのが、オランダ人のFCバルセロナ監督であったことは偶然かどうか。少なくとも、それがレアル・マドリッドの監督でなかったことだけは確かなようだ。オランダ人監督でもカンプ・ノウで好かれなかった人物もあるが、ライカールトはその範囲ではない。畢竟、彼にかかる期待は少なくはないが、それに応えて余りある成果を、彼は今手にしようとしている。

# by meishow | 2005-04-20 22:17 | フットボール