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名将気取り

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2005年 03月 02日

ビッグクラブの皮算用

 やはり、マウロ・シルバが入ると違う。彼の復帰と共に調子の上向いてきたデポルティポ・ラコルーニャが、地元リア・ソールでレアル・マドリーを見事に撃破した(参照)。ラウルがいない。ロナウドもいない。しかし、そんな時のための豪華なバックアッパー陣だったはずだ。
 だがその思惑とは裏腹に、オーウェンとポルティージョが先発で出たこの試合はとうとう前線で起点を作れないままに終わった。ジダン・フィーゴ・ベッカムで組む二列目も、トップでボールが落ち着かないのでどうにも打つ手がないのである。そもそも、スペースありきで活きるオーウェンと、左右のサイドへ流れるポルティージョの2トップで、前線に落ち着きどころのできるはずはなかった。

 しかもこの日のデポルには、マウロ・シルバがいた。守備のあらゆる局面でプレーに絡み、ことごとく攻撃の芽を摘み、スピードのなさも読みの早さで存分にカバーした。そのおかげで試合開始当初、デポルの攻勢に出る早さは尋常ではなった。ゴール前でレアル・マドリーのお株を奪うようなボール回しからルケのヘッドで先制。続くパボンのオウンゴールで勝負あった。

 後半早々に殊勲マウロ・シルバはスカローニと交替するも、ラインを引き気味に敷いたデポル守備陣の前にますますオーウェン・ポルティージョの2トップの活きるスペースはなくなる。これはルシェンブルゴばかりを責められないが、ベンチにもFW登録の選手は一人もなかった。この試合に関して言えば、ラウルよりもロナウドの不在が痛く響いただろう。前線で起点になりえるのは当面のところ彼しかないないのである。

 もっともロナウドの場合は、コンディション不良による欠場も珍しいことではない。明らかにプロ意識に欠けるこの天才児は、ある意味で天性のアマチュアである。デポルの精神的支柱、フランやマウロ・シルバのストイックさとは雲泥の差を見る。おそらく、彼が現役中にその点を改心することはないだろう。

 グラベセンの加入とルシェンブルゴの就任によって、確かにレアル・マドリーに変化はあった。チームとしての方向性が見えてきたことは確実だが、しかし結局のところマケレレの放出以降迷走を始めたこのチームを救ったのは、やはり彼と同タイプのグラベセンの加入だったのである。マケレレさえ放出しなければ、この迷走もなかったかも知れない。ジダンやフィーゴのサラリーに比べて、守備的な仕事を任されるマケレレやディフェンダーたちのそれはグッと抑えられるレアル・マドリーの現実。黒子には金を惜しむその姿勢が、いわば迷走の根本原因だ。

 確かにベッカム獲得にかかった金は、彼を広告塔として使うことで回収可能だろう。マケレレの場合はそれが不可能なのは事実だが、彼の不在によって成績が悪化することによる経済的な損失までをどこまで計算に入れていたのか。その損失を最小限に抑えたいなら、マケレレより格が落ちても、即戦力で使うことのできるグラベセンのような選手の獲得を何としても急ぐべきだった。

 損得勘定のやり過ぎで、まったく非効率的な足し算をしようとしていたようにしか見えない。グティとベッカムの2人でできる仕事を、グラベセンなら1人でこなせるのだが、その前任者であるマケレレも同様だったことを忘れてはならない。明白に数を引いたのに、足し算として考えてしまった首脳陣のソロバン音痴は意外なほど高くついた。今季ビッグイヤーでも取り損ねたら、誰も責任の取りようがないだろう。
 今後、グラベセンが怪我をしないとも限らない。その時にまた同じ問題は噴出するだろう。広告費で移籍金を自己回収できない地味なプレーヤーには金を渋る。まるで素人的なこの路線を、あの世界的なビッグクラブの中で誰も改革を叫ぼうとしないのは不思議だ。

 獲らぬ狸の皮算用で損得だけをあげつらうのは、バレンシアの首脳陣にも同じことが言える。ラニエリ解雇のニュースが出回ったが(参照)、5000万ユーロ以上の損失を嘆くとは片腹痛いとしか言いようがない。
 そもそも長期的な視野を前提にしつつも、今シーズンのタイトル奪取も同様に命じた首脳陣の狙いは、そのどちらに比重がかかっていたのかはこの急速的な決定で明らかだ。フィオーレらイタリア勢をラニエリのために買い与え、いつになく万全の備えでシーズンに臨んだかに見えたバレンシアだったが、最後は我慢しきれずに呆気なく首を切ってしまった。

 フットボールの内容や、ひとつふたつの試合結果などは実は大した問題ではない。首切りへの引き金となったのは、単純にチャンピオンズ・リーグでの敗退である。それも思いもよらぬほどの早期敗退。無論、CLによる収益金をその皮算用の大前提として据えていたので、首脳陣にとってのCLの敗退は天地も覆るほどの大事態だった。

 ラニエリの首を早々と切ったことで、わざわざ彼のために買い揃えたイタリア代表トリオの意味も薄れるし、そもそも倦怠期に入りつつあるチームを長期的な視野で変革しようとする試みそのものを白紙に戻してしまった。また、一からやり直しである。今回の後任監督も明らかな繋ぎ役。来季に新たな監督が来れば、そこからプロジェクトを再開させるとでも言うのだろうか。

 低俗にもこれらの皮算用的な金銭損失を嘆くばかりか、ラニエリの解雇で生じた違約金1000万ユーロまでもを渋る理由はどこにもない。泣きたいのはむしろ彼の方だろう。
 今シーズン前の選手獲得にかかった費用3000万ユーロ。CLで獲得するはずだった3000万ユーロ。UEFAカップで取り損ねた1200万ユーロ。しかし、自らの甘さからくる損失額だけはプライス・レスなのか。

 ビッグクラブがCLリーグでの収益金を見越して予算を決めることは、もはや当然のような風潮でさえある。バレンシア内の誰からも、その早期敗退を責める声はあっても、当初の皮算用の杜撰さを揶揄する声は聞こえてこない。まず健康的でないクラブになることが、ビッグクラブと成りえる最低条件なのか。あまり真似したくない不恰好さである。

by meishow | 2005-03-02 17:50 | フットボール


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