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名将気取り

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2005年 04月 20日

将帥に差異あり

 同じ轍は踏まない。最終的な勝者となる条件のひとつにその項目があるとすれば、今のバルセロナは充分それを持ちえていると言えるだろう。2位レアル・マドリッドと激突したクラシコの敗戦によって、今後のリズムが崩れるのではという懸念もないではなかった。勝ち点差も6に縮まり安穏とはしていられない状況になったことは確かだったからだ。チャンピオンズリーグ敗退後の一戦でもそうだったように、今季のバルサに敗戦を引きずる風は見られない。これは大きなアドバンテージである。
 この先は2位との星勘定ではなく、ただ目前の戦いだけに集中するのみである。勝ち続けていれば優勝が見えてくるというごく単純な構図だ。残る対戦相手は、都合の良いことにレアル・マドリッドが残す相手より組し易いものである。優勝へのカウントダウンはすでに始まったと言って良い。

 この日迎えた第32節。前節で負傷退場したエトーの姿はスタンドにあった。スタメンのトップはマキシミリアーノ・ロペス。これまでリーガで得点のない彼だが、コンビネーションの部分でも不備が見えるほどの新顔ではもはやなくなっている。その点での心配はなかったが、チームに対する影響力は、たとえばエトーのそれとは隔絶していた。

 自然、得点への期待は最前列以降へと移ることになった。ロナウジーニョはたびたび中央へ進出し、マキシ・ロペスやジウリを操った。この点では2トップ後方のトップ下のようなポジションだったとも言えるのだが、右に出ても左に張っても決定的な影響力を保持し続けることが可能なのは、ロナウジーニョの真骨頂だろう。結果、彼のFKから先取点を得たが、その他にも得点の匂いはそこら中に満ちていた。前半が1点で終わったのは、バルサの不備よりもむしろヘタフェの好プレーを称えるべきだ。

 ヘタフェは毎度のことながら、この試合でも小気味の良い戦いぶりを見せた。中位から下位を行き来しているとは思えない好チームぶりである。キケ・サンチェス・フローレス監督の手腕は認めざるを得ない。レアル・マドリッドの下部組織の監督も務めたこともある彼だが、むしろ彼のような人材こそサンチャゴ・ベルナベウの一軍を任せたい。経済至上主義を標榜するクラブの経営路線を打破する指導者として歓迎したい趣もある。ルシェンブルゴの後任には、実より名が先行した人材が挙げられるのが目に見えているだけにそれも空論に過ぎないが、仮にそんなことが実現化しうるのならば、あの白い軍団にもまだ見込みがあるというものだ。

 プジョルを出場停止で欠いた上に、アルベルティーニ、エトー、そしてシウビーニョまでもを怪我で欠いたバルサの台所事情は相変わらずに苦しい。メッシらカンテラ出身の若手に才能がないという意味ではないが、ロナウジーニョら主力級の中心選手が離脱せずにいるために何とか食い繋いでいるというのが実情である。レアル・マドリッドのようにオーウェンやソラーリ級の選手がベンチに控えているようなこともない。よく持ち堪えているという面での評価をもう少し得ても良いように思う。

 マルケスは大方の予想通りに最終ラインへ配置された。中盤の底はシャビの1枚。とはいえ、この日はイニエスタとデコも中盤の深い位置まで下がり、よく彼をフォローした。マルケスは通常このピボーテの位置に入って実質的にはフォア・リベロと称されるべき仕事を担うが、この日も彼の仕事の内実に違いはなかった。最終ラインに位置取っているものの、ヘディングの競り合いなどの肉弾戦は専らマルケスの役目。シャビが後ろに引いてマルケスが前に出る対処法は、普段の役割とさほどの違いがない。むしろDFを1枚切って、中盤にイニエスタが加わったことで総合的な攻撃性は増したと言える。

 後半はヘタフェのスタミナ消費による失速も手伝って、よりスペース的な余裕が生まれた。ロナウジーニョの奮迅はいつものことだが、その裏に絶妙な駆け引きで相手を混乱に陥れるデコの存在があったことを忘れてはならない。デコはこの日も黒子に徹した。惜しまぬフリーランニング、機転の利いたスルー、ワンタッチで弾くパス交換と、随所にいぶし銀の活躍を見せた。彼の貢献があったればこそ、ロナウジーニョはどこにでも顔を出せたし、そのポジショニング効果が増加したと言えるのである。

 ロナウジーニョが時折り中央へ絞ることによって、ジウリと縦の関係性になった。3トップが実質『2+1』の位置取りになったことでサイドはむしろ活性化したと言える。バルサの両サイドバックはサイドハーフのようなポジションを維持して攻撃に絡むこととができた。DFの意識が左右のサイドに振られることによって、中央のロナウジーニョは時間的な余裕を得た。2点目に至るまでに、それと同じような決定機は何度となく訪れている。

 結果として無得点に終わったマキシ・ロペスは、無論FWとしては悔しかっただろうが、それほど嘆息することもなかったのではないか。動き自体は悪くなかったし、何より連携の面で滞りなかった。ジウリが自由になれたのも、前線で身体を張るマキシ・ロペスのポストプレーがあってこそのものだった。まだ新顔の彼だが、その若者らしからぬ落ち着いたプレーぶりには好感が持てる。

 終わってみればヘタフェを「2-0」で下して首位を堅持。2位のレアル・マドリッドもレバンテに同じく「2-0」で勝ったので勝ち点差は変わらずのままだが、しかし二度のクラシコの直接対決で得失点+1をバルサがリードしており、そのアドバンテージにより数字上では勝ち点差6ながら、実際上はの差が存在している計算になる。つまりレアル・マドリッドはバルサと勝ち点で並んでも優勝はできないということだ

 下位のレバンテ相手に、またしても守備的なカウンターフットボールで勝利を得たレアル・マドリッド。王者を目指すこのチームが下位チーム相手にカウンター戦術で立ち会う姿は、もはや醜悪ですらある。仮に彼らが優勝すれば、間違いなくチーム内のMVPはカシーリャスとなるだろう。スーパープレーを披露し続けるGKと快速FWの活躍は、転じて守備的な非魅力的プレーに徹されたことの証左である。イタリアでは許されるその卑屈さを、スペインの地でブラジル人監督が志向しているという皮肉が何とも悲哀を誘う。
 
 これほどまでに対照的な首位争いの構図もない。メッシとフィーゴ、両陣営のベンチに控える控えの層を見ても、この時点でレアル・マドリッドが2位であること自体がある意味では茶番である。まさしく、フットボールは札束では買えないということの証明でもある。名だけは豪華な手駒を持つ一方の将は目にも無惨なカウンターフットボールに徹し、主力の怪我に泣かされる一方の将はシーズン通して攻撃志向を崩さずにいる。その両者の指向の差異は、驚くほどに大きい。王者の称号に相応しい将帥がいずれであるかは、もはや言うまでもないだろう。


「素晴らしいフットボールを展開しているヘタフェのようなチームに勝てたということが大切だ。チームは頑張っているし、良い方向に向かっている。それが一番大切なことだ。このまま続けていかなければならないし、他のチームと比べたりはしない。実現するまではタイトルの話はするつもりはない」

 こうライカールトは語っている(参照)が、今のところチームに軌道修正の必要は見られない。シーズン通して高品質のフットボールを維持することは至難の業だが、クラブレベルの指導者としての経験が豊富とは言えない彼のこれまでの仕事ぶりは充分賞賛に値する。チームの状態が良い時も悪い時も、信念を曲げようとしなかったその性根には敬意を払いたい。選手時代に監督クライフともぶつかった彼のことである。ドリームチームと幾ら比較されようと、ライカールトの目はそこには留まってなどいないだろう。監督としての彼の矜持は、すでに世間に蔓延する『ライカールトはクライフの弟子』といった画一的なものの見方を軽く凌駕してしまっていることだけは確かだ。

 ただしかし、彼は監督としてまだ何も手にしてはいない。そのひとつ目の栄光がバルセロナのリーガ制覇という冠なのであれば、若手監督として果たしてこれ以上のものが他にあるだろうかと思われる。シーズン序盤、ラーションとジウリが離脱した時点でバルサの優勝に黄信号が灯って以後も、彼はその短くない期間を凌ぎきった。今の「バルサ優勝間違いなし」という風聞も、彼にすれば軽薄な評価だ。

 足元を見据えた上で、プレッシャーに気圧されず夢のあるフットボールを展開する若手監督は、思うより世界には少ない。人材薄のそのポジションにまず名乗りを上げたのが、オランダ人のFCバルセロナ監督であったことは偶然かどうか。少なくとも、それがレアル・マドリッドの監督でなかったことだけは確かなようだ。オランダ人監督でもカンプ・ノウで好かれなかった人物もあるが、ライカールトはその範囲ではない。畢竟、彼にかかる期待は少なくはないが、それに応えて余りある成果を、彼は今手にしようとしている。

by meishow | 2005-04-20 22:17 | フットボール


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