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名将気取り

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2005年 03月 16日

最終予選突破専用チーム

 アジア最終予選イラク戦・バーレーン戦の代表26人が発表された(参照)。そのうち最も大きな障害となりそうなのが、累積警告で出場できない田中とアレックスの不在である。昨年春の東欧ツアーから3バックを本格導入して戦ってきた日本代表チームだが、ここに来て今また4バックへの移行が取りざたされている。
 アジアカップの優勝で鉄壁のイメージを確立した日本の3バックは、アレックスの不在時に往々にして4バックへの移行が叫ばれる。しかし、よくよく考えてみれば一人の選手が抜けた程度で揺らぐ基本布陣というものもおかしな話だ。3バックのセンターバックを担当する人員には、中沢・宮本・田中を始め、坪井や松田・茶野らが控えている。普通であれば怪我人でも続出しない限りは、一人の欠場で即4バック移行という展開にはならない。

 やはり左ウイングバックはウィークポイントなのか。アレックス以外の候補をあえて試そうとしないジーコの意図は今ひとつ掴めないままだが、守備に不安を残しつつも攻撃面でもクラブチームでの活躍ほどには披露できないアレックスを、みなが思うより高く評価していることだけは確かだ。そのお蔭で三浦淳宏もバックアッパーとして計算できるのかすら実質的には未知数で、相変わらずアレックス以外の適当な候補が見当たらないのが現状である。

 特に今回の対イラン戦では、そのアレックスに加えて3バック右の定位置を掴んでいた田中も欠場する。中沢も万全ではなく、アジアカップで鉄壁を誇った3バックも宮本だけが健在という恰好である。控えの中で茶野は当確だが、他には不安な要素が少なくない。コンディションが良好なら、この機会のレギュラー取りに期待が持てる松田と坪井の二人は、共に怪我明けということもあり試合勘という面で不安を残す。バーレーン戦ならまだしも、来週に迫ったイラン戦に限っては3バックを体調万全の選手で構成することが不可能という構図だ。
 
 ここにきてジーコは再び4バックを採用するのだろうか。3バックを取った場合、3-4-1-2の『1』の部分は中村なのか小笠原なのかという論議も立つわけだが、先の北朝鮮戦とは異なり事前の合宿を欧州で組むということで、ここは中村が当確と見るのが妥当だろう。だだ、右WBの加地のバックアッパーが不在なのが気懸かりである。これまでは西がそれを務めてきたが、今回のメンバーではその役回りは藤田ということなのか。

 もう一点、問題となっている中田英寿の3-4-1-2への加入だが、ジーコが彼の先発での起用にこだわっていることを考慮しても、やはり中田の右WBでの活用は考えられないと見る。無論、面白い試みになりそうだという予感もあるが、ジーコの場合は先発起用でそういった使い方を好まないような傾向が見て取れるのである。やはり4-2-2-2の2列目で中村と組むのが適当だと考えるのが妥当だろう。


「彼(中田)の場合は数試合自分の下でやってくれていて、本当にどこのポジションでもこなせるというか、いろいろなポジションをやってもらったわけですけれど、今回もまったく同じです。今の状態で彼が一番貢献できるところ。そういったことを含めてこれから考えますけれど、本当にどこのポジションでも非常にいい力を出してくれるんじゃないかという期待を持っています」

 これはジーコの中田英寿に対する信頼の現われとも取れるが(参照)、しかし中田が『どこのポジションでもこなせない』ことは、これまでの彼の足跡を見ても明らかだ。ローマ在籍時の3列目起用も、パルマ在籍時の右サイド起用も、はたまたトルシエ政権下のFW起用も、どれひとつとして嵌まることはなかった。つまり彼は思われているほど器用な選手ではない。性格的許容範囲の中でさまざまなポジションを一時的に受容することはあっても、彼がその役回りを的確にこなしきれるかとは別問題だ。
 ただ、中盤2列目で起用される場合なら杞憂はない。彼が得意とする中盤センターのテリトリー内では、周囲の選手の特徴に合わせつつ、ある程度の尺度の中でプレーの差し引きを演出することが可能だ。それを表わすように、フランスW杯予選の頃の彼と今の彼とでは同じポジションでプレーしていても働きぶりが異なる。これは彼の成長によるスタイルの変化を示すのではなく、周囲で共にプレーする選手の顔ぶれが変わったことによる影響である。つまり、彼一人が中盤で孤軍奮闘しなければならなかったあの頃とは、もはや彼の役回りも異なるということだ。

 4-2-2-2への移行は、実はすでにジーコは実戦で試している。まずは昨年末の対ドイツ戦。稲本が復帰したこの試合で、加地・田中・茶野・アレックスの4バックで挑んでいた。そして先日の対北朝鮮戦では、後半高原と中村を投入してからは4バックに移行して戦った。その試合で動きの良かった小笠原と、新投入の中村を併用するためにDFを1枚切ったわけだが、スクランブル時とはいえ全体の流動性は悪くなかった。

 今回のイラン戦に限って4バックを採用したとして、先発と見られている左サイドバック三浦の控えが見当たらないのは問題だ。試合中に怪我や警告で退場しないとも限らない。これまでアレックスのバックアッパーとして過ごしてきた彼だが、その三浦の先発起用で次の控え候補がいないということは、これまでジーコが積極的にこのポジションの候補選手を試そうとしてこなかったことを如実に表わしている。ブラジル代表のロベルト・カルロス並にアレックスを重用してきたことのツケが露わになったわけだが、ジーコにはまた別の解釈があるようだ。今回のメンバー中に、三浦のバックアッパーとなる選手が見当たらないことについての質問に対するジーコの答えは以下の通りである。


「2人の選手、あえて名前を挙げれば小野、中村選手がこのポジションを過去にやっています。他にも名前を挙げませんが、自分が考えているバックアップのメンバーがこの中にはいると考えています」

 中村と小野についての発言はおそらくトルシエ政権下での彼らの使われ方を差してのことだろうが、後半部の名前を挙げないバックアッパーの候補が気に懸かる。ジーコの頭の中では、ウイングバックまたはサイドバックをこなせる選手が今回のメンバー中に存在していると言うのである。

 右サイドバックの加地を除いて、センターバック的な選手しかいないDFの面々はその候補に当たるとは思えず、必然10人いる中盤の中からその候補を見つけ出さざるをえない。だがその中でも、ジーコがFWとして捉えている本山がここに入るとは思えないし、遠藤・福西・稲本らもここからは外れるだろう。

 注目すべき点として、中盤選手の中で左利きの選手は2人いる。中村と中田浩二である。4バックであれ3バックであれトップ下での起用が堅い中村は別として、中田浩二ならサイドでの起用も可能だ。ジーコが考える左サイドの候補とは彼のことではないのか。中田浩二はコンディションさえ良好なら、かなりの割合で代表メンバーに名が入っている。アレックス・三浦に継ぐ第三のバックアッパーとしてなら、考えられなくもないだろう。突発的な怪我や累積警告による欠場などによるアクシデント時以外には適用されない使い方なのだから。
 仮に中田浩二であれば、4バックの左SBも存外耐えられるかも知れない。走力はないが、守備に関しては及第点だ。少なくとも、最終ラインにいる時のアレックスよりは心配がないだろう。

 とはいえ、中田浩二のサイドでの先発起用はよほどのことがない限りはないと言える。アレックスのいないイラン戦に限り、左サイドのバックアッパー候補として考えられるというだけの話だ。しかしこれを踏まえると、周囲の心配を余所に一向にアレックスのバックアッパーを探そうしてこなかったジーコの思惑がここに見て取れる。アレックスが大きな怪我でもしない限りは、今後も候補者探しには熱心ではないだろう。

 4バックで流動性の出なかった初期と比べて、3バック移行後の成績の安定性にはジーコ自身も手応えを感じているようだ。堅守が売りの現在の3バックだが、それは今までの日本代表のイメージにもすんなりと重なる。
 加茂・岡田・トルシエ、そしてジーコ。そのいずれの時代も代表チームのカラーは堅守速攻型だった。ブラジルの自由主義導入が謳い文句のジーコ体制だが、今の戦いぶりも堅守速攻のイメージそのままである。つまりブラジル気質の申し子ジーコを以ってしても、日本代表に流れる血は変えられなかったというところか。

 しかしながら、無欲の不思議人ジーコだけに、他の監督になら抱けないであろう淡い期待感も同時に芽生えてくる。この今の堅守速攻型のチーム作りは最終予選突破用の専用カスタムではないのか、という期待である。予選の特に厳しい南米での経験があるために、ジーコがそう考えていたとしても不思議はない。前回のW杯で見事優勝したブラジルだが、その南米予選では苦戦続きで一時は突破も難しいと言われていた。予選と本大会は別物とはよく言われるが、それは南米もアジアも変わらない。出場権のかかった最終予選までは堅守速攻型でも、いざ本大会に出れば別の戦い方を見せるチームもある。そういう意味では、予選時と同じ戦いぶりで本大会に臨むチームの方が稀であるかも知れない。

 どちらにしろ、ジーコにはそういった面での期待感がある。少なくとも期待を抱かせる不思議さがある。それが『神』とアダ名される由縁なのかはわからないが、当面のところ代表チームの戦いぶりは変わりそうにはない。特に中東のスタイルは堅守速攻の一点逃げ切りパターンが多い。彼らを相手に攻め続けて、凡ミスから一点奪われたら日本の方がパニックになる恐れは充分にある。3バックで守ってから入る今のスタイルの方が、予選突破には向いていると言えなくもないのである。

 FWも未だ確固たるエースがいないものの、ある程度の粒が揃ってきた。スクランブル攻勢に転じた時の迫力や期待感は昔の比ではない。そもそも、先の北朝鮮戦では海外移籍組の何人かが不在のままで臨んだ。それに関しては大きな反発もなかったし、実際に初戦をものにしている。
 これは昔日の日本代表チームを思えば隔世の感がある出来事だ。加茂監督のもとフランスW杯へ向けて戦い始めた90年代終わりの最終予選の頃は、海外クラブでプレーしながら参加している選手はいなかったが、試みに当時の代表チームのレギュラーから4、5人が抜けた状況を考えてみるとどうだろうか。三浦カズ、中田英寿、名波、山口素弘らを欠いた状態で勝利を掴めていただろうか。ましてや彼ら不在のまま戦うという選択を、世論が果たして認めただろうか。

 実際には、あの当時20歳だった中田英寿ひとりが抜けることさえ考えられなかっただろう。だが、それに比べれば今の代表の呑気なことと言ったらない。FWは誰が出ても同じ、中村・中田がいてもいなくても良い2列目、小野・稲本でも遠藤・福西でも大差のない3列目、候補者の体調が万全であればドングリの背比べと言える最終ライン。これらは良い意味でも悪い意味でも使われる文句だが、ほんのひと昔前まではそんな状況すら考えられなかったとういうことを鑑みると、レベルは確実に上がっているとは言えないまでも選択肢が広がっているのは確かなようだ。

 最終予選を突破して出場権を確保することが先決、それ以外に目指すべき目標は今のところない。面白くないフットボールの披露と心配を誘う白熱の展開だけは予想できる。これは予選突破専用のチームと割り切って見てみれば、ストレス少なく観戦できるのではないかという気がする。予選も全勝すれば問題ないわけだが、前提として勝ち点を争う競技であるということも忘れてはならない。残り勝ち点1で予選突破が確実な時点で、無理に攻めに出て負けても喜ばれるわけではない。


「今回の2試合に関しては両方ともまず勝ち点3をしっかりとした気持ちの中で狙いますが、今置かれている状況の中で一番求められているものが本大会への出場権ということです。過去の統計を見ましても、いずれにしても非常に難しい相手です。ホームで試合を落とす、勝ちを得られないということは、後々厳しいことになると思います。ですから両方(イラン戦・バーレーン戦)とも勝ちを狙いますが、やはりホームでの試合(バーレーン戦)は絶対に落とせないという気持ちを持っています。ホームですので選手たちはプレッシャーもあるでしょうし、しっかりとした成果を出すのは非常に難しいことですけれども、とにかく3ポイント。3ポイントを取れればベストだと考えています。
 1位でも2位でもワールドカップ本大会の切符を獲得するということを考えますと、あと2つ残されているホームでの試合を確実に取って、アウエーで1つでもいい形が取れれば確実にワールドカップに行けると思います。ですから1位をという考えではなく、確実に本大会への切符を手にするということを考えますと、やはりホームでは落とせないと思います」(ジーコ談)

 アウェイでのイラン戦(3月25日)、ホームでのバーレーン戦(同30日)と続く2連戦。間違いなく最終予選の山場である。6月のアウェイ2連戦までにある程度確定しておきたいところだ。それはジーコも痛いほどにわかっているだろう。
 叶うことなら早い段階で出場権を獲得して、出来るだけ早期にW杯本大会仕様の代表チームにお目に掛かりたいものである。本大会を見据えたそのチームが、よもや堅守速攻型の3バックスタイルではあるまい。世界に恥じるところのない戦いぶりで、むしろ憧憬すら誘うような攻撃型チームを志向してくれるに違いない、と今は思いたい。

by meishow | 2005-03-16 12:59 | フットボール


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