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2005年 09月 28日

引き潮の高さ

 予想外というべきか、リーガ・エスパニョーラ第5節ベティス対バルセロナの試合は稀に見る凡戦に終わった。そもそもマヌエル・ルイス・デ・ロペラに乗り込んだバルサが、「1−4」の大勝を得て帰るとはとても思えなかったというのがまずある。昨シーズンの記憶もまだ新しいところだ。

 第一、バルサ自慢の4−3−3とセラ・フェレール率いるベティスお得意の4−2−3−1は、がっぷり嵌まれば面白い展開になること請け合いだった。たとえロナウジーニョとデコが欠場しても、ベティスにエドゥとダニがいなくても、それは試合を左右するほどの悪影響とはならないと思われたのである。

 バルサの前線は先の2人を温存したことによって、エトー、ラーション、ジウリの3枚、2列目にシャビとファンボメルそしてその下にエジミウソンを置いた限りなく4−1ー2−3に近い4−3−3。対するベティスはオリベイラを最前線に据え、2列目の3枚はフェルナンド、アスンサオ、ホアキンと並ぶ4−2−3−1

 期待値は並びを見ただけで試合前から失せつつあった。デコの代わりに入ったファンボメルが悪い訳ではないが、ロナウジーニョの不在と重なってしまってはボールの落ち着きどころがシャビしかいなくなる。前線の3枚はスペースに走り込む以外に効果的な攻め手がなくなることを意味するのだから、これには少々食傷気味である。

 一方のベティスは思いのほかエドゥの不在が響いた。ターゲットに成り得るのはオリベイラただ1人であり、それによってこの日のアスンサオは中盤から前線を駆けずり回らざるを得なかった。

 実質的には前半21分のオリベイラの退場で期待したような展開は幕を閉じた訳だが、それより前にすでに試合は終わっていた。というより終わらされていた。これは間違いなくライカールト監督の指示に相違ないが、中盤の底のエジミウソンはセンターバックの2人と共に、ただただオリベイラ1人をケアし続けていたのである。

 ベティスの前線へのパス供給源であるミゲル・アンヘルやアスンサオを塞き止めるのではなく、DFのラインを下げてでも前線のオリベイラにパスを通させない。囲い込むことによってその存在を死滅させるという、まるで囲碁の定石のような一手だった。これによりバルサの守備体系は絶好調時より数メートルは後退することになったが、事実オリベイラは完全に試合から消されてしまった。試合開始21分の時点で彼に相当のフラストレーションが溜まっていたのは、何も彼だけの責任ではない。

 オリベイラ包囲網によって、まず危険を察知していたのはベティスの大元締めアスンサオである。彼が執拗なまでに前線へのフリーランを繰り返したのは、自らにバルサ守備陣の意識を引き寄せ、オリベイラの包囲網を崩すきっかけを見い出そうとしていたその一念に過ぎない。そうなると、パスの出し手はミゲル・アンヘルただ1人になってしまう。確かにパスは何本も供給されたが、ホアキンにしても中央にターゲットがなければただのドリブラーに過ぎなくなる。

 後半以降は、見る影もなかった。オリベイラがいなくなってもベティス陣営に特に目立った動きもなく、4−2−3−1の「」がなくなっただけの4−2−3。ノートップ布陣のまま淡々と時間を消化してしまった。

 しかしながら、これは無理もない。実際に使えるFWの駒がなかったのだし、第一に現在のベティスを支えていたのは、確固たる守備ブロックからなる安定したDF力だったのである。1トップが欠けようが何があろうが、守備体系を破壊してしまっては収拾がつかない状況をもたらしていた可能性は高い。この試合でも、たとえばエトーがもう2、3点獲っていても不思議はなかった。

 バルサにとって21分以降の試合は、紅白戦よりも張り合いのない種のものだったであろう。ノートップの相手に4−1−2−3気味の布陣で対する必要はない。エジミウソンに代わってシャビが中盤の底にずれ込み、ファンボメルはいよいよ攻撃姿勢を強くした。プジョルは中盤へ進出するし、シウビーニョも徐々に滑走し始めた。

 イニエスタの投入がバルサの攻撃を活性化させたのは間違いないが、それは彼個人の能力如何によるものというより、前半から続いていたオリベイラ包囲網をライカールトが解いたことによる影響である。

 それに呼応するように、これまで前線からのチェックが甘かったバルサの守備が急速に動き出した。包囲網の解除でラインも上がり、FW陣の追い回しも効率良くなってきた。こうなると相手監督のセラ・フェレールには手の打ちようがない。今更、前線にカピを入れても入れなくても大勢に影響は出なかったろうし、ホームの試合でただ終了の笛を待つばかりとなった状況も変わらなかっただろう。

 重要なことは、オリベイラの退場前に試合が終わっていたということである。その時からすでに勝ち点以上はバルサの手中にあった。たとえオリベイラの退場がなくても試合はバルサのプランの上で進行していた可能性は高い。その先の展開は多少の変化もあっただろうが、どちらにしろアスンサオが走り回らざるを得なかった戦況は変わらないと見る。結局のところ彼のセットプレーで逃げ切るくらいしか、ベティスには勝算がなかったのである。

 なぜこうもバルサ有利に運んでしまったのか。彼らはロナウジーニョもデコも欠いていた。シーズンの序盤戦を好調に戦えている訳でもない。しかし、だからこその安全策だったのだと思われるのだ。ボールキープに優れた名手2人を欠いた状態でも、昨シーズンまでのバルサであれば同じような戦い方で臨み、うまくいかないと見てから試合中に変更しそれに対応しただろう。
 しかし、今シーズンは試合開始から自身のプランを遂行し貫徹して見せた。オリベイラ退場という予想以上の結果を得ると、臨機応変に勝ち点を獲得する方向でさらに敵に襲いかかった。

 間違いなくライカールトは進化している。昨季の優勝に奢る素振りを微塵も感じさせないのは、チャンピオンズリーグの苦杯がまだ口の端に残っているからなのか。どちらにしろ自ら望んで凡戦にしてしまい、それを勝ち点へと昇華できる能力を知らぬ間に彼は身に付けてしまった。バルサのようなチームを率いる場合、それは何よりも貴重な武器となるだろう。

 しかも、この試合に限っては主力を温存しての勝ち点獲得である。はっきり言って、前半オリベイラ退場まではバルサとして考えられる最低レベルの試合ぶりだった。逆に見れば、最低の試合をして相手をそれに付き合わせることによって、相手の本質を絞め殺してしまった訳だが、プラン通りに遂行し得たということの他には誇れるようなこともなく、これ以上の凡戦もない。

 言わばバルサの干潮時の最低点の試合ぶりだったのである。その線引きが最低線なのだとすれば、満潮時の最高点はどれほどまでに跳ね上がるのか期待させてくれるものはある。

 エスケーロは恐らくフィットするだろうし、メッシはスペイン国籍を取得できそうだ(参照)。シーズンの序盤で見えてくるものはまだ序幕の切れ端に過ぎないが、今季のバルサはなおも期待を持続させてくれそうである。

 新戦力の選別眼、チームへの戦術の浸透性、現在のバルサのそれはどれも確かなものだが、「プロジェクト2010」と謳われる主力陣の長期契約リストの中に、監督ライカールトの名が加えられていることが妙に頷けるのだ。
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by meishow | 2005-09-28 00:55 | フットボール