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2005年 07月 15日

トンネルの外には

 開幕当初、あれだけ鮮烈な印象を残したFC東京が、その後4月からの3ヶ月間勝利を得られなかったことは今季の大いなる謎ですらあった。いつしか順位も下降し、気が付けば2部落ちの争いさえ演じそうな気配も漂い始め、近年稀な長期政権を築く原監督の進退すら危ぶまれた現状は、どう贔屓目に見ても危機的としか表現の仕様はなかった。そろそろ暗中模索からの打開策を見出したい頃合と言える。

 迎えたJリーグ第16節、清水対FC東京。同じく4バックで戦う少数派閥の同志・清水との下位チーム争いは、しかし上位チームの3バック対決よりも見所は深かった(参照)。長谷川監督の今季に対する視野は、明らかにチームの起訴的な土台作りにあるとはいえ、4枚の最終ラインを崩さない心意気には並々ならぬ決意を感じさせる。この日も最終ラインは不動の面々、山西・森岡・斎藤・市川というラインナップ。伊東と高木和道の3列目がその前方に構え、前線はチェテウク・久保山・佐藤由紀彦の3枚の上にチョジェジンが控える整然たる4-2-3-1

 対するFC東京は、ルーカスの復帰により念願の中央1トップ型が復活お目見えして4-2-3-1気味の4-3-3。金沢・茂庭・ジャーン・加地の4バック、中盤は今野の1ボランチに栗澤と梶山が据えられる。梶山の位置取りがやや微妙な性質を持つもののこの中盤の3枚のトライアングルが生命線であることは違いない。前線は戸田・ルーカス・石川。スピードのある両サイドに比して、キープ力に優れるルーカスのキャラクターが作用して前線は往々にしてV字に変形する。良い時のFC東京の型である。

 今季の不調の遠因は数あれど、まず以ってルーカスのコンディションにその理由を求めることが最も直接的であるだろう。前線での落ち着きどころがなければ、その実3トップの機能するはずもなく、またサイド攻撃が活性化することもあり得ない。それはこの試合にも言えるFC東京の当然のテーゼである。

 清水戦前、右サイドバックの加地は清水の左サイドで光彩を放つチェ・テウクとの対峙について、「できるだけ高い位置を保ってチェテウクを敵陣内へ押し込めたい」と言う意味のコメントを残していたが、実際に押し込められたのはむしろ加地の方で、攻撃は右サイドに高く張る石川の突破に任せきりだった。だがこれも、清水の右サイドバック市川の攻撃参加の回数に比べて見劣りするというだけのことで、加地の場合はこの方が自然な形であるのかも知れず、彼自身にとっても無理のない身分なのかも知れないので何とも言えない。

 試合の展開としては、開始直後からFC東京の出足が清水のそれを勝った。ホームで敵に押される清水は苦しいところだったが、ハーフタイムで長谷川監督が語った通り「出足が遅く、中盤にタメがない」のでリズムを作りきれない。左のチェテウクはスピードに優れた高性能アタッカーだし、右の佐藤もクロスの精度はJリーグの中では秀逸な方である。中にある2枚にしても決定力のチョジェジンに、飛び出しに妙ありの久保山との組み合わせには面白味を感じる。
 しかし、3列目の伊東と高木が低めの位置取りをしたことで、どうしても中盤にスペースが生まれてしまい繋ぎがない状態が長く続いた。そこをFC東京の最前線にあるべきルーカスが下がってきて巧く突いたのだから、リズムがそちらへ傾くのも無理はなかった。

 ルーカスはほとんどトップ下とも言うべきポジショニングで、最前線で身体を張ると言うよりも1.5列目のチャンスメーカー的役割を完璧にこなした。ルーカスが落としたボールを栗澤・梶山が拾ってサイドへ展開する。この規則正しい運動が絵に書いたように決まったのは、やはり相手側である清水の前線4枚のキャラクターに負うところも大きいとはいえ、原監督念願の4-3-3の良い面がようやく顕示されたと言う方が好ましいだろう。

 後半、清水・長谷川監督の打った手は的を射たものだった。両サイドが外に開きすぎることによって生まれた中盤のスペースを埋め、かつ前線と中盤の繋ぎ役を務められる人選が必要だった。後半開始から沢登を投入した決断は至極納得がいく。左右のサイドを見比べて、調子の良いチェテウクを残すのはまず頷けるし、1トップである以上、トップに近い位置でプレーしている久保山は外せない。佐藤OUT・沢登INの采配は確実に後半の期待感を盛り上げた。

 将帥の思惑通りか、沢登がこれまでの清水になかった位置でボールを散らすことで新たなリズムが生まれた。徐々に打ち合いの様相を呈してくる。敵も味方も可笑しみを感じさせるほどサイド攻撃に固執した。遅攻、速攻を繰り返しつつも、基本はあくまでサイドからという思想は両チームのイレブンに浸透していたし、無論両指揮官の間にもその意味での邂逅はあった。

 噛み合ったというべきか、面白いようにマッチアップが決まりどっぷり四つに押し合った。左のチェテウクには守備者として及第点の加地が対して突破を許さず。右の沢登は中央に絞ることで、対峙するべきFC東京の左サイドバック金沢は逆に前方へ駆け上がった。この金沢、最終ラインに置くには惜しいほどの技術を備え、左サイドバックとして動きの質も申し分ない。それに加えて高精度の左足をも持ち合わせる。クロスにもサイドチェンジにもその妙味を活かせる彼が、A代表の招集すら受けないことには首を傾げざるを得ない。

 爽快な打ち合いになりそうな試合展開も、終わってみれば「0-1」という最少得失点の地味なスコアに収まったのは、彼ら両チームが下位にいり何よりの原因である得点力の貧弱さによる。シュートを打てども入らない。これは見慣れた光景ながら、中央の人数を割いてまで両サイドに人を置いている以上、サイドからのクロスの精度が低ければ攻撃のすべてが成り立たなくなる。

 サイド攻撃とは、言うなればチームが一丸となってサイドのプレーヤーにボールを回すことと同義である。サイドからのクロスにすべてを賭けているのだと言い換えて良い。それは山なりのボールでなくても構わない。速く低く入れるグラウンダーのものでも良い。とにかく点を得るための最も効率的な攻撃法としてサイドからのクロスがある限り、それを実行するプレーヤーには最も重い責任が圧し掛かるのである。チームの全員が汗水たらして渡したそのボールを、低精度のクロスで水泡に帰していては攻撃の意味をなさない。この日の両チームの場合は、単純な意味での決定力不足というより、クロスの精度不足と言った方がより近い。

 後半、ルーカスのクロス気味のシュートがゴールに結びついたのは皮肉としか言いようがないが、良くも悪くもこの両チームの現状を顕わしているという意味でこの日には相応しい形のゴールだったと言えなくもない。

 伊東に替えて長身のFW西野の投入、久保山を下げて右サイドに太田を入れ、右にいた沢登を中央に回す采配は、どれも的外れではなかったが、監督の意図を選手全員が感じとれていなかったことでチクハグな試合運びになってしまった。しかしFC東京との差も、終了間際の沢登のFKが決まっていれば何とか辻褄が合わせられただろうという程度のものでしかない。


10千葉 21
11清水 20
12川崎 18
13FC東京 17
14大分 17
15新潟 17
16東京V 16
17柏 15
18神戸 11

 ともかくも、FC東京にしてみれば3ヶ月ぶりの勝利。勝ち点のありがたみを必要以上に味わえたことだろう。ルーカスの調子さえ崩れなければまだまだ沈没は避けられる。清水の戦いぶりには多少の疲れが垣間見られたが、こちらも基礎工事だけは順調に進んでいると見る。いずれも下位に足を突っ込んでいる両チーム。勝ち星を拾えない試合が続く中、思想なき応急処置を施そうともせず、4バックを貫く両監督の心意気には好感が持てる。
 特に、緊急事態と言って差し支えないFC東京の方は、今後数試合の成績如何で下位に留まるのか中位以上へ上がれるかが決まる正念場である。それを率いる原監督の心中は察するに余りあるが、この期に及んで思想を変える節操のなさは持ち合わせていないようだ。

 
「彼(ルーカス)を真ん中に、戸田を左にしてバランスは崩さないように挑んだ。前節は戸田とルーカスの2トップでやったが、戸田は左サイドから走った方が良いだろうと考えた。ルーカスはコンディションさえ戻れば中央でボールをキープできる。そこから両サイドを使っていくという意図でバランス良く攻められたと思う。
 こんなに勝てなかったことはクラブにも私自身にもなかったこと。決して悪くないのに勝てない。でもそれは我々に『もっと強くなれ』と言われていると前向きに捉え、絶対に乗り越えていこうとアウェーでも勝点を取りにいった。ここから上を向いてもっと強気で良いサッカーをして勝っていきたい」(原監督・試合後談/参照

 降格争いを演じるチームではなかったはずだ。むしろ上位陣の退屈な戦いぶりよりも魅力的なフットボールを感じさせる。攻撃的フットボールを謳いながら点が取れないことほど辛いことはないが、しかしそれを以って彼らを愚将とは笑えない。
 確かに長いトンネルにいたようだった。光は随分前からちらついていたが、それが出口であったのかわかりづらかった。今回の1勝で遂にそのトンネルの外に出たのか否か。光のある外界には、それに伴う重圧が待っている。だがしかし、成績という名の『現実』と、『思想』とのマッチアップは下手な三文芝居よりも見応えがある。シーズン終了までにはまだ日があるが、優勝争いと降格争いの他にもごく抽象的で繊細な戦いがあることを意識しておくべきだろう。
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by meishow | 2005-07-15 01:03 | フットボール