名将気取り

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2005年 02月 14日

ラニエリかく戦えり

 メスタージャに新たな指揮官が舞い降りて半シーズンが過ぎた。クラウディオ・ラニエリの織り成すイタリアン風味のフットボールは、いまだ高評価を聞かないでいる。彼は何を期待されていたのか。
 監督には幾つかのタイプがある。中でもラニエリは、堅実さを兼ね備えつつも選手の育成に長けた育成型の監督に分類されるだろう。手持ちの駒を最大限に使い、使い物にならない若手選手を育てて起用できるレベルに引き上げ、チームをひとつの方向性へ向かうように仕向けて戦わせる。言わば、チームの土台構築の専門家である。

 チェルシー監督時代、彼は金満オーナーの買い与えた雑多な選手たちの溢れるチームを統率し、チームの崩壊を避けつつ、どうにかこうにか戦えるチームに仕立て上げたのは、彼一流の手腕である。素人の目で揃えられた名前先行型の補強は、監督にとって頭痛の種でしかなかった。ベロンも、クレスポも、ムトゥもダフも、監督の好み如何の以前に当時のチームに必要とされていた能力を持つ人材ではなかった。結局、チームを躍進させるほどの活躍を担ったのは、結局ラニエリが見守り続けたランパード、テリー、グジョンセンら痒いところに手の届く選手たちだったのである。
 当時のチェルシーを纏め上げた手腕は、もう少し評価されても不思議はないのだが、どういうわけかそのあたりは黙殺されるのが常だ。そして今季、古巣のバレンシアに戻っても、彼は高評価を受けているわけではない。

 新たにチェルシーの監督に就任したモウリーニョがチームをスムーズに運営できているのは、言うまでもなくラニエリの遺産のお蔭である。それはバレンシアにしても同様だった。ラニエリが率いたチームを受け継いだのは、クーペルそしてベニテスだったが、彼らが相応の結果を残せた背景にはラニエリ時代に培われた選手たちのベースがあった。現在のバレンシアの主力の多くは、当時のラニエリの薫陶を受けている。そのラニエリが再びメスタージャに戻ったのだが、さてサポーターは何を望めばいいのだろうか。

 優勝請負人ではない。超一流と謳われる監督でもない。育成に長け、統率力に優れ、土台作りを得意とするラニエリ。現在は一年延長のオプション付きの二年契約。バレンシア首脳は、その二年間で何を期待しているのか。倦怠期を迎えたチームの土台をもう一度根底から築き上げる荒療治。もし仮に、クラブとしての目論見がそこにあったとすれば、首脳陣の慧眼には恐れ入るばかりだが、本当のところはどうだろう。
 イタリア勢をバランスよく配備した今季の補強を見てみると、どうも昨季までの見当違いの癖が見られないことにちょっとした違和感を感じることは確かではある。今夏、来シーズンに向けての補強策の中でバレンシアの視野がどの辺りに向いているのか、はっきりしそうである。案外に適材適所の補強を繰り出すのではないかという予感もある。

 ラニエリのフットボールはイタリア的で退屈だというのが一般的な見方だ。スペインでの評価は当然高くはない。安定した守備陣の堅固さ(これもラニエリが蒔いた種だが)をベースにした現在のバレンシアは、たとえ誰が指揮を執っても守備的な展開になることは間違いない。揃えた選手層がまずもってその風があるし、長年の戦いを経る中でそういうスタイルを培ってきたからだ。

 現在の布陣は、以前と変わりなく4バックの前に2枚の頑強なセンターハーフが並ぶが、トップ下の選手も事実上は中盤の深い位置まで下がることが多く、実質的には3ボランチの気がある。あとは左右のウイングを起点に1トップ目掛けての放り込みが目に付くのが特徴だろう。前線の選手はスペースを突くのが主で、これはもはやチームの基本戦術となっている。
 シッソコなどが中盤の三枚目に入ると、こぞって3ボランチと揶揄されるのだが、フィオーレやアングロが配置された時でさえ、実際上の職務は変わらない。選手の個性の差で位置取りが多少変化しているに過ぎないのだ。どちらにせよ4-2-3-1の『』の中央に位置する選手は、このチームにあっては中盤の起点でしかない。

 守備的か攻撃的かという話題の中で、現在ベンチを暖める機会の多いアイマールの起用法がそれらの論点となることが多いが、それはお門違いというものだろう。言うまでもなく、アイマールはチームで最も攻撃的な才能に恵まれた選手である。しかしながら、彼を今のチームのトップ下に配置することは少なからずリスクを伴うのも事実だ。
 彼は長い距離を走りきって前線で活躍するタイプの選手ではない。前線近くでボールを待ち、彼にボールを集めた上で徐々にスピードアップしてペナルティアーク付近で決定的な仕事をする名手である。強引な言い方をすれば、彼はロベルト・バッジオのようなFW的な解釈で捉えざるをえないのだ。
 
 今季のバレンシアは時に2トップを採用しているが、それも4-2-3-1の『』の左右のどちらかにFWの選手が投入されるというだけの話で、純粋な2トップではない。つまり、アイマールの配置場所は1トップか左右のウイングしかないのである。彼を1トップに置くには決定力もつらいものが出てくる。走力を要するウイングも厳しい。しかし、なおそれでも、現在は起用される機会を少時間ながら与えられているのだから、アイマールは与えられたそのチャンスをものにしていくしかなさそうだ。第一、彼はベニテス時代から常に重用されてきたというわけでもなかった。技術に優れ、走力の劣る選手の居場所は、今後どこへ移ろうとも狭い選択肢の中に収まることになる。

 すでに強豪としての評価を不動のものにしつつある今のバレンシアだが、その一段上のステージを踏めるかどうかの瀬戸際にきていることは、クラブに関係する誰もが認識しているところだろう。真の意味でのビッグクラブとなる可能性は確かに濃厚だ。しかしながら、それは容易な道程ではない。ラニエリ個人にしても、超一流の監督となるにはもう一歩のステップが必要な段階だ。
 クラブの目指すところと、監督の目指すところが、これほど一致する状況も珍しい。選手たちをも含めた三人四脚の歩みがスムーズに運べば、短くない時間がかかったとしても目標の達成は可能だろう。

 ラニエリにとっての今季は我慢の時。ベニテスの遺産を有効に活用しながら、騙し騙し航路を進めていくに違いない。前監督の作り上げたチームを急速に変えることはできないし、無理強いすればチーム力をむざむざ落とすことになりかねないのである。

 ラニエリは決して現時点で監督の座が安泰であるとは言いがたい。彼の資質的特徴を鑑みれば、テクニカル・ディレクターのような職種にも向いているように思われるために、監督としてチームを率いるという状況を長く続けられるかどうかは、今のところはわからないし、その種の噂も尽きない。しかしシーズンの終わるこの夏に、順当な位置でフィニッシュできればラニエリとバレンシアの改革は次の段階へと進むだろう。
 さて、その先にあるのは進化したイタリア系フットボールか。それともスペイン・イングランドを渡り歩いたラニエリの発案する新たなるフットボールの形であるのか。どちらにせよ、それらの先に見えてくるチーム像が堅実なキャラクターを備えているであろうことは違いなさそうだ。
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by meishow | 2005-02-14 16:29 | フットボール


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