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名将気取り

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2005年 05月 04日

盛衰の交差点

 終盤も差し迫ったリーガ第34節、トップで2強の鍔迫り合いが続く中、より熾烈を極めているのはむしろ3位以下の欧州杯出場圏内を賭けての争いだろう。ホームでライン相手に惨敗を喫したデポルティボ・ラコルーニャと、3位という高位置につけるアンダルシアの雄セビーリャとの対戦。
 4位以上のチャンピオンズ・リーグ出場権および6位以上のUEFA杯出場権の獲得は、すなわち来シーズンの懐具合を決める予算争奪戦でもある。今季は優勝を争う2強を除いて稀に見る混戦で、この期でも3位のセビーリャ(勝ち点55)から10位のデポルティボ(勝ち点46)あたりまでは充分にUEFA杯まで手が届きそうな位置取りだ。

 現時点で3位のセビーリャは、ホアキン・カパロス監督のもと手堅くも小気味の良いフットボールを展開して考えうる最高位につけている。一方のデポルティボは低迷から脱却したかに見えた一時の復調ぶりも今や見られず、依然中位にうずくまっている形。勢いでもセビーリャに軍配が上がるという試合前の予想を、そのまま絵にしたような試合だった。参考のため、この試合前のイルレタの言葉を引用しよう(参照)。


「まだ5試合、勝ち点で計算すれば15ポイント残っている。我々が目標を達成したかどうかの総括は最後にして欲しい。悲観的になっても何もいいことはないんだ。2連敗している監督が何を言っているんだと思われるかもしれないが、私は現実を言っているまでだ。例えば残り5連勝することだってありうる。まず今週末のセビーリャ戦に勝って、次のホームの試合に弾みをつけたい」

 ディエゴ・トリスタンの離脱によりルケがセンターへ入ることで、イルレタがチョイスする選択肢はふたつ。いつもの変則4-4-2をそのまま採用するか、もしくは純粋な4-2-3-1で手堅く構えるか。スタメンから見る結果は後者、左SBのカプデビラを左ハーフに置き、ムニティスを右に配した4-2-3-1。ビクトル&ムニティスの両サイドという予想を後ろ向きな意味で裏切った形である。
 対するセビーリャは、こちらも主力の離脱で前線はダリオ・シルバが久方ぶりのスタメンでセンター。使われてもサイドハーフに配置されることの多かった彼にしてみれば、監督を見返す良い機会でもあったが、それはルケにしても同様である。本来センターFWとしての自覚のある彼にすれば、左サイドで変則的な2トップの片棒を担がされるよりは真ん中でのプレーにより魅力を感じているはずだ。

 だが結果的に、この二人の明暗はチームのそれをも分けた。デポルティボはとにかくラインが間延びして仕方がなかった。確かにセビーリャの左右両サイド(ヘスス・ナバス&アドリアノ)は広く狭くサイドを蹂躙してはいた。しかし縦に伸びきったラインを押し戻せなかった点は、最前線のルケに拠るところは大きい。マイボールになった時点で、DF陣としては押し上げのための時間的余裕が欲しいところであるが、ルケは再三その時間的余裕を僅かなチャンスと引き換えにして無にした。無論のこと、良いボールが回ってこない焦燥もあったろうが、1トップが中盤の深い位置まで下がってきては前線に落ち着きどころの生まれるはずがない。最前列にバレロンひとりが佇む姿は悲壮感さえ漂った。

 前半、マウロ・シルバの負傷時に奪われた先制点は、中盤の底に空いたそのスペースをバプティスタに巧く使われた結果だが、しかしその決定機以外でもこのセビーリャの10番には再三振り回されていた。彼が中央で存在感を放つことで、より両翼が活きたことは見逃せない。これと同じことはこの日のデポルティボ側には見られなかった。
 ルケの冒した間違いを、一方のダリオ・シルバは逆転の発想で打破した。ボールが良い形で足元に入らないのならばと、自慢のスピードを活かして左右のスペースへの走り込みを繰り返す。これにより、デポルティボのDF陣はラインを下げざるをえなくなった。彼の空けたスペースには、バプティスタやヘスス・ナバスが勢い良く走り込んでくる。2点目のヘスス・ナバスのシュートは秀逸だったが、その前に彼が中へ絞って開くだけのスペースがそこにあったことを思うと、ダリオ・シルバの献身的な動き出しは実行力を伴ったフリーランニングと映るのである。

 マウロ・シルバの交替以後、いよいよデポルティボのラインは開いた。ビクトルを投入してムニティスを左に配し、遅ればせながら変則4-4-2に戻すも時すでに遅し。3列目のセルヒオらが必死に攻撃に絡もうとしたが、そのため中盤底の、すなわちバプティスタのスペースがガラ空きになった。左右両サイドは無人の如くで、後半は追加点を入れなかったことの方が不思議でさえある。

 サンチェス・ピスファンは数々の奇蹟を起こしてきた由緒ある舞台だが、この日の勝利は至極当然の結果のようでドラマ性は少なかった。セビーリャの俊敏な戦いぶりに比べれば、デポルティボのそれは酷く鈍重だったと言える。ルケが健在だし、ビクトルやムニティス、セルヒオも好選手である。名前から見れば、むしろセビーリャの方が数段見劣りする。少なくない数の離脱者を抱えるとはいえ、デポルティボの戦力値は決して低いものではない。ではその病巣は何かと問われれば、やはり精神的な団結力の有無になるだろう。

 チームとしての共通意識は、勝ちさえすれば得られるものではなく、また負けたからといって失われるものでもない。それらを維持することは至難の業だが、名将とはそれをコントロールできるものを言う。イルレタがリアソールに降り立ってから長い年月が経ち過ぎたのだろうか。否、個人の能力で対応できる限界点をすでに状況は越えてしまっいるのである。彼の育て上げたチームという乗り物は、機関部が故障することなく各部が劣化し消耗した。メンテナンスが追いつかず、ついにドライバーの意識が低下した。部品の各部が思い思いの軌道を描き、今や走っているのがやっという状態である。それを固体として何とか維持しているのが現在のイルレタの姿である。これ以上を彼に臨むのは酷と言うべきだろう。

 デポルティボは明らかに再編の時期に来ている。ポスト・イルレタの最有力候補と言われるセビーリャの将帥ホアキン・カパロスが作り上げたチームは、全体の守備意識が攻撃にも好影響を及ぼす健康的なスタイルである。イルレタからすれば、敵チームのその躍動は何年か前のデポルティボを見るような思いだったに違いない。上り調子の若いチームと下り坂の老いたチームが交差したこの日の対戦は、見事にその対比をスコアに比例させた。クラブの盛衰はフットボールの常でもあるが、これほど如実に立ち現れる例も珍しいだろう。


「もし臆病者の監督だったら2年連続でピチチ(得点王)を生み出すチームは作れない。しかもこのように小さなクラブでね。 違うかい? マカーイとディエゴ・トリスタンはデポルでピチチを獲得した。だからそれは真実ではない」

 イルレタのこの言葉(参照)は、残念ながらこの日の彼には当てはまらなかったと言えるだろう。左サイドにカプデビラを置いた4-2ー3-1に勇気ある指揮官の横顔は窺えない。リアノールの敗戦は確かに痛手だったが、サンチェス・ピスファンでのセビーリャ戦に恐れをなしたとしか見られない戦いぶりだった。カプデビラの左ハーフ配置は、すなわちルケ+ムニティス頼みのカウンター戦略。それがためのバレロンの中途半端な位置取り、それがためのラインの間延び。チームの意識がこの試合の勝利にあったのかどうかすら疑わしい。まさにチーム劣化の末期的な症状だった。

 CL出場権を狙う上でこの試合に賭けるセビーリャの目は吉と出た。直前合宿を張ってまで臨んだデポルティボ戦は「2-0」で快勝した。若いチームは乗せると怖い。次節に控えるベティスとのアンダルシア対決でも好勝負は必至である。残り4試合の現時点でデポルティボは勝ち点46で11位に後退。セビーリャは勝ち点58で3位をキープした。


1 バルセロナ 78
2 R・マドリッド 72
3 セビーリャ 58
4 ビリャレアル 55
5 バレンシア 53
6 エスパニョール 53
7 ベティス 52
8 サラゴサ 49
9 A・マドリッド 48
10 A・ビルバオ 48

 セビーリャの考えうる最高位はこのままの維持の3位。CL出場枠の4位、UEFA杯出場枠の6位までの争いは最終節までもつれることになりそうだ。1試合落とせばそれだけで戦線脱落というデッドヒートだが、すでにデポルティボのシーズンは終わったに等しい。仮にUEFA杯に手が届くようなことになれば、それこそ驚きだが、以降は勝ち点を争う同胞と直接対戦の目白押しであるため、可能性もないとは言えない。
 今節アルバセーテに快勝したバルセロナは依然首位のまま、同じく勝ち点3を収めたレアル・マドリッドとの勝ち点差も変わらず。レアル・マドリッドがこのあと4戦全勝しても、バルサは2戦2敗できる計算が立つ。次節バルサが勝ってレアル・マドリッドが敗れれば、そこでバルセロナのリーガ優勝が決まる。

 今季、素晴らしい躍進を見せたセビーリャだがこのまま行けばCL出場は堅い。むしろ杞憂は来シーズンの陣容になる。主力の離脱を留めることも至難だが、何よりホアキン・カパロス監督の去就がより重要だ。上り調子にあった若いチームの勢いを、レジェス放出後も維持してさらに進化させた手腕はまさに一流と言える。来シーズン、彼の定位置がリアソールにあるのかは定かならないが、どちらにしろセビーリャが見せた小気味の良いパフォーマンスは今シーズンのリーガを魅惑的に彩ったことだけは確かである。

by meishow | 2005-05-04 14:48 | フットボール


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