名将気取り

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2005年 03月 13日

フットボール界の世界地図

 オーストラリアがオセアニアサッカー連盟(OFC)からアジアサッカー連盟(AFC)への加入を希望している(参照)。他大陸連盟への移籍は双方の連盟が承認すれば可能となっている。今回のオーストラリアの場合は、どちらかというと意外性は少ない。オセアニアと言えばアジアの南東に位置する広範囲な地域を差すが、オーストラリアの他はどの国も人口が極端に少なく、ヨーロッパ・アジア・アフリカなどの一大陸という枠組みで考えるフットボールの世界では、どうしてもその存在が軽く浮いてしまう位置取りになる。

 そのお蔭で、これまでもオーストラリアは充分に苦渋を嘗め続けてきた。オセアニア内には自国以上の実力を持つ対抗国が皆無で、しかも地域予選参加国は僅か12カ国。そこで与えられるW杯出場枠は0.5枠に過ぎない。その国々の中で1位を確保しても、南米やアジアの予選で中位に位置した国とのプレーオフを余儀なくされる。予選の中での修羅場も経験しづらいオーストラリアとしては、急に真剣勝負のプレーオフに回されても、修羅場慣れしているアジア・南米の最終予選中位の国に苦戦を強いられることは避けられない。その国土の実質的な距離以上にワールドカップ出場への道は遠く険しい。

 地理の上では、オーストラリアはアジアのサッカー連盟に組み入れられてもおかしくはないと言えるだろう。AFC側もそれに対しての強い反発は見せていない。特にオーストラリアは、他のオセアニア諸国から疎外されている状況が続いている。心情的にもオセアニアから脱出したい意向は自然と汲み取れる。だが真意としては、やはりプレーオフなしにW杯出場権を得られるアジアの一員となってW杯予選に挑戦したいというところだ。
 
 ハリー・キューウェルやマーク・ヴィドゥカらを要するオーストラリア代表の実力は低いとは言えず、過去W杯に出場してきた各国と比してもかけ離れた遜色は見当たらない水準は保っている。とはいえ、強豪ひしめく南米に混ざって戦っては勝機も薄く、今回アジア加入を志向したのは戦略的な思惑が強い。
 仮にアジア連盟加入が認められれば、2010年以降のW杯予選では日本や韓国もオーストラリアと争うことになろう。アジアの出場枠が増えるのかは今のところ不明だが、さして数が増えないであろうことを見越すと、やはり出場権確保の難易度だけが跳ね上がる計算だ。最終予選でエキサイティングな試合が増えるであろうことは疑いないが、日本としては歓迎ばかりもしていられない。

 フットボール界における国家単位の大陸連盟間の移籍は、アジアの枠組みが漠然としていた20世紀半ばこそ稀には見られたが、その後はめっきり少なくなった。記憶に新しいところでは、カザフスタンが2001年にAFCを脱退し翌年にヨーロッパサッカー連盟(UEFA)へ加盟したという例が目立つくらいである。カザフスタンはソ連からの分離独立当初、過去との繋がりを断ち切りたいという思いが強くアジア連盟への加入を決めたが、10年近くの時を経て勇躍欧州への道を選んだ。

 晴れてUEFA52カ国目の国家となったカザフの欧州移籍の論点は、大きく分けてふたつ。
 ひとつは経済的利点。欧州に加入したことで、UEFAが主宰するあらゆる大会に参加できる資格を得た。これはアジアのどんな強豪国やクラブでも参加が不可能であることを思えば、カザフが得た権利は特権と言っても差し支えないほどのものだ。
 カザフの国内リーグで好成績を収めたクラブは、自動的にUEFAの大会への参加権を得て出場し、他の欧州各国のクラブと対戦することができる。勝ち抜けば、世界的に有名なクラブとの対戦も可能だ。それによる広告収入及びTV放映権などの金銭も舞い込んでくる。それら副収入の額は、アジア内で得ていた金額とはまるで桁が違うという噂もある。
 またW杯予選でも欧州有名各国との対戦が実現する。ジダンやネドベド、フィーゴやベッカムらを擁する各国代表との対戦を、事のほか選手たちは喜んでいる様子だ。それらの対戦の中で、カザフの無名選手がジダンらスター選手相手に彼らを凌駕するような活躍を見せれば、欧州有名クラブのスカウトに引き抜かれるということも可能性としては充分に考えられる。そもそもアジア予選では開かれなかったこれらの可能性が、欧州へ加盟したことで開かれたのだからカザフ選手の歓迎ムードも当然と言える。

 だが、もうひとつの論点となる不利点も、そのW杯予選である。欧州へ加入したことで、今後かなりの長期間カザフがW杯へ出場することはなくなるだろうということである。52カ国がひしめく欧州のW杯予戦は、本大会よりも厳しいとの評判が高い。今大会を例に挙げれば、主催国ドイツを除く51カ国が14のポストを争う。対戦は8カ国前後に分けられた各グループ内での総当り戦。今予選のカザフは、ウクライナ・ギリシャ・デンマーク・トルコ他2カ国と同組で、今のところ四戦全敗で最下位に留まったままだ。各組1位で出場権獲得、2位でわずかに可能性が残されるという状況の中、カザフがこの予選を勝ち抜ける可能性は極めてゼロに近い。

 それでもUEFAへ移ったカザフの決断は、『W杯を捨てて、クラブ単位の大会を取る』という目算でのことか。言い換えれば、『名を捨てて実を取る』ということでもある。カザフ・フットボールのレベルの底上げは、リーグの活性化にあることは明白だが、有能な国内選手の国外進出も大きな意味を持ってくることは間違いない。その両方を強化助長できるUEFA入りという決断は、カザフにとってのビッグバンだったと言える。

 だが皮肉なことに、昨年UEFA杯への参加資格を得たはずのカザフ国内リーグ優勝クラブが、UEFA側からスタジアム施設及び経営面での不安定さを指摘されて資格を剥奪されたという話もあるようで(参照)、欧州での道程も甘くはなさそうだ。しかしながら、ソ連崩壊後に同じくAFCへ加盟した隣国ウズベキスタンはいまだアジアでの挑戦を続けている。欧州への道も考えられる中でアジアを選んだウズベキスタンと、アジアを捨て欧州へ打って出たカザフスタンの間で、今後どれほどの差が生まれてくるのか興味深いところではある。

 ヨーロッパとの分け目が判然としないアジアには、他にも微妙な色合いを持つ国家は存在している。カザフスタンの場合はロシア系住民の割合が多く、欧州へ加盟するのに不自然さはなかったから問題はないが、たとえば地図上ではロシアと接している日本が、もし欧州入りを希望してもそれは叶えられないだろう。

 そんな中でも、トルコなどは特殊な例として挙げられる。現在EUへの加盟申請をしているトルコだが、フットボールの世界ではすでにUEFA加入を果たしている。W杯予選も欧州で戦い、先の2002年大会には欧州の一員として参加した。クラブレベルでも欧州の大会でトルコ国内リーグの各クラブが奮闘を見せているというのが現状だ。
 だが、このトルコ。実際には欧州の範囲内にある国土は、トルコ全体の3%に満たない。つまり残りの97%はアジアに存在しているのである。ヨーロッパとアジアとの境界線は、ボラポラス海峡で線引きされるために見分けが鮮明となるのだが、国土の97%をアジアに属しながらもヨーロッパへ加盟している状況はかなり変わっている。

 さらに例を挙げると、中東の真っ只中に位置するイスラエルは、ヨーロッパサッカー連盟に加盟している。これは周辺のイスラム諸国との国家間の摩擦を防ぐための政治的配慮に拠るものだが、同じような理由で80年代には、台湾がオセアニアのサッカー連盟に加盟してW杯予選をそこで戦ったことがある。

 こういった意味では、フットボール界に限って言えば世界地図の色はころころと変わることが可能だ。これはスポーツという媒体の自由さを表わしてもいるが、反対に政治色が確実に反映されることも同時に示している。しかし特にアジア・ヨーロッパの境界線に関しては、意外と融通が利くということが言えそうである。日本がヨーロッパへ加入することは無理だとしても、建国時の事情などを鑑みれば、オーストラリアの場合は欧州加盟もありえない話でもなさそうだ。そのオーストラリアがアジアへ申請を出した。その思惑はカザフスタンの真逆。『実より名を取る』戦略、すなわちW杯への出場以外に彼らのターゲットはない。

 アルゼンチン・ブラジル・パラグアイ・ウルグアイ・チリ・ペルー他、全10カ国が総当たり戦で血で血を洗う南米予選にオーストラリアが参戦し、そこで4位以上の成績を収めてW杯の出場権を確保することに比べれば、日本・韓国・イラン・サウジアラビアらと争うアジア最終予選の方が幾らも難易度が低く映るのは当然だろう。
 何よりアジアにはクレスポもロナウジーニョもいない。オーストラリアの屈強な守備陣が恐怖するアタッカーの数は南米のそれとは比較にならないし、キューウェルらを止める守備陣もサムエルやイバン・コルドバではなくアジアのDFたちだ。つまりアジアは充分に嘗められている。

 このまま対戦して負けるわけには行かないが、まずは3月中のAFCの話し合い及び4月のOFCの総会を経てからでなければ何も決まらない。オーストラリアのAFC加入はカザフの件とは大きく事情が異なり、果てはフットボール界の連盟再編の動きにも繋がっていく可能性すら秘めている。事はそれほど簡単には進まないと見るべきか。

 どちらにしろ、フットボールの世界においてオセアニアという区分には常に曖昧さが伴ってきた。オーストラリアという国のレベルが低くなかったことで、今回はそれが顕著になったという形だが、どのみち考える時期には来ていたのだと解釈して前向きに検討するべきである。日本にとってのアジア予選がより厳しいものになるのは歓迎したくないところだが、欧州や南米の予選に参戦してW杯へ行けるような自信が湧かないうちは、おとなしく精進するしかあるまい。

 アジアの最終予選は1グループ4カ国のホームアンドアウェイの総当り。イラン・バーレーン・北朝鮮の組み合わせは、たとえば欧州のグループ1、オランダ・ルーマニア・フィンランド・チェコ他3カ国の中で1位2位を目指す戦いに比べれば、どれほど楽に思えることか。日本が欧州の1カ国であればとてものことW杯へ行けるような気がしないが、東欧の小国ジャポンニアとして切磋琢磨していた方が、フットボールの水準も上がるのだろうかと夢想すると、いずれが良いとも思えなくなるから不思議だ。
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by meishow | 2005-03-13 17:32 | フットボール


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