2005年 03月 08日

ビセンテ・カルデロン要塞

 なかなかに落ちない。アトレティコ・マドリッドの拠るビセンテ・カルデロンは、さながら要塞のようだ。調子の上がりきらないチームも、ここホームスタジアムでは今季まだ一敗しか喫していない。先週末に行なわれた第37節のセビリアとの対戦では、遂にスペイン1部リーグ1000勝という快挙を果たすに至った。これはレアル・マドリッド、バルセロナ、アスレティック・ビルバオに継ぐ大いなる記録である。
 その記録に王手をかけたのは前々節。記録をかけて挑んだ前節のラシン・サンタンデール戦では苦杯を嘗めたが、やはりビセンテ・カルデロンにおいては自力も上がるようだ。『3-0』の快勝できっちりと花を添えた(参照)。

 熱狂的なサポーターの数ではスペイン国内でも1、2を争うアトレティコ・マドリッド。ホームスタジアムはまるで巨大なスピーカーのように唸る。大音量の声援はアトレティコの選手をも萎縮させてしまうことすらあるというくらいで、他チームにとってやりやすい場所であるはずがない。ホームでの圧倒的な強さも当然のような気もしてくる。

 セビリアを迎え撃つアトレティコは4-4-2。フェルナンド・トーレスとサルバで組む2トップだが、実質的には2列目サイドのグロンキアが上がる3トップに近い形だ。もちろんイバガサ不在の影響は大きく、中盤からの組み立ては雑だった。それでも、本来サイドバックながらウイングに配されたアントニオ・ロペスが左サイドで存在感を示したこともあって、前線の3人は動ける状態にはあった。
 無論、エースであるフェルナンド・トーレスに何本かの好パスさえ出せれば、それで勝ちを拾えるホームゲームである。怪我人が多くベストの状態からは程遠かったこの日のセビリア相手では楽な試合だったと言える。

 指揮官セサル・フェランドは、アルバセーテ監督時代から手堅い守備に定評があった堅実派の代表格。ビッグクラブのアトレティコに移ってもやることは変わるはずもなかった。グロンキアの獲得は好手だったが、戦い方は至って地味だ。コンパクトな中盤の素早いプレスから、サイドもしくはフェルナンド・トーレスとイバガサのコンビへ繋ぐという一辺倒な攻撃パターンしかない。
 この日はイバガサがいなかったこともあって、サルバとフェルナンド・トーレスの2トップのどちらか一人は左サイド寄りにポジショニングするよう心がけていた。そのため、右のグロンキアを合わせて3トップ気味に映るという仕掛け。やはりグロンキアの突破力はこのチームの魅力を支える生命線だ。

 結論から言えば、この日のセビリア戦はアトレティコの1000勝目という記録以外に見るところのない凡戦だった。3回あったゴールシーンも、サイドを崩しきって上げた得点ではない。グロンキアとアントニオ・ロペスは左右で奮闘したが、如何せん出球が悪い。ボールを受ける位置の多くがセンターラインからそう遠くない場所ということになれば、サイドを深くえぐれないのも彼らだけのせいにはできないだろう。
 だが、そんなアトレティコの様子が目立たずに済んだのは、それ以上にこの日のセビリアがお粗末だったからである。ビセンテ・カルデロンの重圧に押されてか、セビリアは試合開始当初からラインを引き過ぎて、遂にそれを上げることがなかった。バチスタもセルヒオ・ラモスも存在感をまるで示せない。監督としてもお手上げだったろう。打つ手はありそうにないほどの不甲斐なさに見えた。

 チャンピオンズリーグ出場権さえ狙える位置取りのセリビアとは、UEFA杯を争うライバルであるとは言え、迫力的に見劣りのするアトレティコ。だが、自慢の要塞に拠ることで、その威圧感を増さしめることには成功していた。

 しかしながら、ホームスタジアムというアドバンテージは、どこまで実質的な戦闘力に反映されるのか。味方の萎縮と敵の萎縮が完全に違っていなければならず、しかもそれは必ず敵の萎縮が味方のそれを凌駕していなければならない。ただブーイングの大小によるものではないだろうが、それが伝統からくるものなのか、それとも愛着の具合によるものなのかは推察しかねる。
 不思議なことに、ビセンテ・カルデロンでのアトレティコの勝率は高いものの、だからと言ってホームスタジアムで素晴らしいフットボールを披露できているというわけではない。とにかく負けにくいというだけである。そんな一見して奇妙なアドバンテージを生む風習すら羨ましく思えてくるのは、日本のサッカーファンだからだろうか。
 
 Jリーグにも熱狂的なサポーターを抱えるクラブは少なからず存在するが、その手の圧倒的なホームアドバンテージというものはまだ多く聞かない。ホームスタジアムを要塞化するというその土俗風習じみた観念が、野次やブーイングという負の要素だけで成り立っているはずはなく、それ以外の何かが決定的に影響していることは確かである。それが何であるのかを日本人が知りえるのは、彼らと同じだけの長い年月をサポートに捧げた後なのだろうか。

 ともかく、アトレティコの面白みのない戦いは続く。先頃、セサル・フェランドとアトレティコ首脳との間で、2006年までの契約を完了する方向で話し合いが持たれた。昨年11月に更新された契約をここにきて確認するのも妙な話だが、フロントはやる気満々のようだ。何と言っても、アトレティコが監督の在任中に契約更新をすることなど、ここ数年来なかった動きである。

 堅実派の監督は就任以来マイペースに地固めをしてきた。守備陣が安定したあと折り返した冬の市場で、課題だったサイドアタッカーをグロンキアという申し分のない選手の獲得で解決した。今季は欧州カップ戦への切符が最大の目標だが、出場権獲得となれば、来季までに欧州対応版のチームを作り上げなければならない。前向きに過ぎるフロントを見ていると、選手獲得費を惜しまず夏の市場に乗り込みそうな気配だが、『欧州カップ戦=TV放映権・賞金』というビッグクラブの安易な方程式を得て、皮算用の蟻地獄へと陥る可能性大という気がしてならない。

 27節終了時点で8位。中位の集団からは一歩抜け出しそうな位置にはつけた。目標達成のためには、まずこれ以後の上位との直接対決だけは落とせない。次節、6位バレンシアを迎えるビセンテ・カルデロンは、またも要塞と化しサポーターと選手を活気づかせるだろう。内容が伴うかどうかは二の次。ともかくも勝利である。それを懐疑的な目で見ることは容易だが、否定しきれない憧れのような感情が芽生える。彼らがその絶え間のない繰り返しの中で築き上げた1000勝という数の重みは、おそらく熱狂的な地元のサポーター以外には推し量ることはできないのだ。
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by meishow | 2005-03-08 22:43 | フットボール


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